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9.行きつけの店

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「味が……」
「濃い……」

 定食屋で料理を食べた私とロンダーは、そのような感想を思わず口にしていた。
 ここの料理は、どれもやけに味が濃い。正直、あまりおいしいとは思えない。

「クルレイドさん、ここの料理はどうなっているんですか? 明らかに味が濃すぎると思うんですけど……」
「そうか? 俺は好きなんだがな……」
「そ、そうなんですか?」

 クルレイド様は、味の濃さをまったく気にしていなかった。
 濃い味が好きというのは、理解できる。ただ、これを好きというのはおかしい。流石に味覚が変だと思ってしまう。

「昔兄上を連れてきた時も喜んでいたんだがな……」
「ギルドルア様も?」
「ああ、まあ俺達は濃い味が好きみたいだ」

 クルレイド様だけではなく、王家がそういう好みであるらしい。
 それは本当に大丈夫なのだろうか。会食などで変な空気になったりしないか、少し心配になってくる。

「普段から、こういう料理を食べられているんですか?」
「ああいいや、そういう訳ではないですよ。王城では多分、レミアナ嬢が普段食べているのと同じようなものを食べています。それもおいしいと思っていますよ。ただ、時々無性にこういうものが食べたくなって」
「なるほど、それなら少し安心しました」

 私の心配は、杞憂だったようだ。
 ただ、私は少し不思議に思った。普段の料理をおいしいと思える人が、どうしてこんな濃い味も好んでいるのだろうか。
 味覚というものが、私はなんだかわからなくなっていた。

「まあ、好みではないというなら無理に食べなくても大丈夫ですよ。この後、別の店にでも行きましょう」
「いいえ、出していただいたものは、きちんと食べますよ」
「なるほど、レミアナ嬢はご立派だ」

 クルレイド様からの提案に、私はゆっくりと首を振った。
 目の前にあるのは、私が頼んだものだ。それを食べずに帰るというのは、なんというか私の主義に反する。

「元々、味が濃いとは聞いていましたからね。想定以上ではありましたが、まあそれでも許容範囲内です」
「僕も姉上と同じ意見です。ちゃんといただきますよ」

 私とロンダーは、そんな感じで料理を食べ始めた。
 ちなみに店内に、私達以外の客はいない。つまりこの店は、市民にとってもおいしいと思える店ではないのだろう。

 そんな店がどうして成り立っているのか、それが少しわからない。クルレイド様のような根強いファンがいるのだろうか。
 とはいえ、人がいないからこそ、私達がくつろげるという面もある。そういう側面も含めて、クルレイド様はこの店を愛しているのだろうか。
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