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5.忘れるべきこと

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「どうやらとんでもないことになってしまったみたいだね……」
「ええ、そうなのよ」

 私から話を聞いたロンダーは、頭を抱えていた。
 彼も驚いているのだろう。自分が心配していたことが、実現してしまったことに。

「しかし、妙だね。確かにアルペリオさんは姉上のことを妹だと思っていたはずだけど、それは強情に婚約破棄する程のことなのだろうか?」
「それはそうなのよね……でも、アルペリオ兄様にとっては重要なことだったのかもしれないわ」
「なんだか腑に落ちないな……」

 ロンダーの気持ちは、私もよく理解できる。アルペリオ兄様の態度は、おかしいくらいに頑なだったからだ。
 婚約が自分だけの問題ではないことは、兄様だってわかっていたはずである。それなのにこんな強引に婚約破棄するなんて、いくらなんでも自分勝手だ。それくらいアルペリオ兄様なら、わかっているはずである。

「まあでも、結局の所アルペリオさんとの関係は終わった訳だし、いつまでも彼のことを気にしていても仕方ないか」
「……そうね」

 結構引きずっている私と違って、ロンダーはすぐに気持ちを切り替えていた。
 彼は、アルペリオ兄様とそこまで深く繋がっていない。人見知りが激しかった彼は、兄様とそれ程打ち解けられなかったのだ。故に彼にとってアルペリオ兄様は、姉が慕っている人くらいの認識だっただろう。
 そのため傷も浅いのだ。逆に私は、かなり深いのかもしれない。

「姉上も、あんまり気にしないようにね?」
「ええ……」
「といっても、無理か。僕も姉上に裏切られたりしたら、きっとかなりショックを受けるだろうからね……今の姉上は、そういう状態である訳だ」

 ロンダーは、私のことを心配してくれていた。
 本当に、彼はできた弟である。そんな弟に、いつまでも心配はかけていられない。

「……気持ちを切り替える必要があるわね。ねえ、ロンダー、どこかに出掛けない?」
「旅行か。いいかもしれないね。気分転換になるだろうし……」
「お父様も、多分許してくれるわよね。私の気持ちは理解してくれているだろうし……」

 とりあえず私は、何か楽しいことをしようと思った。
 心の傷を癒すには、それが一番だ。めいっぱい楽しんで、嫌なことは記憶から消し去ることにしよう。

「父上の方は、大丈夫かな?」
「まあ、お父様も誘ってみてもいいかもしれないわね」
「ふふ、家族皆で旅行か。そんなのいつ以来かな?」
「どうだったかしらね?」

 それから私達は、旅行の話を始めるのだった。
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