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4.父の怒り

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「……なんということだ」

 エルライド侯爵家の屋敷に戻ってきた私は、アルペリオ兄様から婚約破棄を告げられたことをお父様に告げていた。
 報告を聞いたお父様は、苦悶の表情を浮かべている。当然のことではあるが、かなり驚いているようだ。

「まさか、アルペリオがそんなことを言うとは……何を考えているのだ、奴は」
「私のことは、妹にしか思えないと言っていましたが」
「だから婚約を破棄すると? そんな子供じみたことが許される訳がないだろう」

 お父様は、アルペリオ兄様のわがままにかなり怒っていた。
 それも当たり前のことである。婚約破棄とは、それ程に重大なことだ。

「お父様の言う通りだと思います」
「む……すまない。お前に怒っている訳ではないのだ。少し感情が、昂ってしまった」

 私がゆっくりと頷くと、お父様は冷静さを取り戻していた。
 しかしそれでも、イラついているのがわかる。アルペリオ兄様がやったことが、かなり頭にきているようだ。

「オルドーンめ……一体、どういう教育をしているのだか」

 お父様は、窓際で外を見つめながらそんなことを呟いていた。
 オルドーンとは、ランペシー侯爵つまりはアルペリオ兄様の父親のことである。その人は、お父様の親友だ。お父様の怒りの矛先は、そこにも向けられているらしい。
 今回の件で、二人の友情にひびが入るというのは少々心が痛い。しかしながら、お父様が言っていることももっともだ。今回の件は、ランペシー侯爵家の教育が疑われる行為である。

「まさか、アルペリオ兄様があんなことを言い出すなんて思いませんでした……私は、兄様のことを尊敬していました。ランペシー侯爵家の立派な跡取りだと、そう思っていたのに……」
「私も期待を裏切られた気分だ。アルペリオのことは買っていた。奴ならば、お前のことを悲しませることはないとそう思っていたのだ。その結果が、これとは……」

 私もお父様も、アルペリオ兄様に対してひどく失望していた。
 一体彼に何があったのだろうか。昔はこのような選択をする人ではなかったというのに。
 それとも、私達の見る目がなかったというだけなのだろうか。なんというか、色々と自信がなくなってきた。

「……しかし、嘆いてばかりもいられない。時期にランペシー侯爵家からも通達が来るだろう。どの道、今回の婚約は破談だ。このような仕打ちをされた婚約者など、こちらから願い下げだ」
「それなら、私の婚約は?」
「他の相手を探すとしよう。少々難しいことではあるが……」

 お父様の言葉に、私はゆっくりと俯く。
 アルペリオ兄様によって、エルライド侯爵家の現状は大きく変わることになってしまった。一体これからどうなるのだろうか。少し不安である。
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