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30.手強い夫人
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カルロム伯爵の死は、予想していた通り病死ということになった。
義母は納得していなかったが、彼女の秘密をイレーヌが告発したことによって、彼女は窮地に立たされてそれ所ではなくなった。結果的に、義母イピリナは伯爵家を去ったのである。
イレーヌは母親とともにいかず、とある神父の元へと向かった。そんな彼女と別れてから私が向かったのは、ドルピード伯爵家の屋敷である。
客室に通された私は、目の前で複雑な顔をしている夫と義理の兄を見ながら考える。今の二人に、なんと伝えればいいのだろうかと。
「……とにかく、そちらの問題が片付いたなら良かった」
「ああ、ええ、そうね。お陰様で、なんとか解決することができたわ」
そんなことを考えている内に、マグナスの方から私に言葉をかけてきた。
色々とあったが、私の方は概ね全ての因縁を解決することができたといえるだろう。それはもちろん、嬉しいことではある。
ただ、このドルピード伯爵家に渦巻く問題が解決していないという事実に、私は素直に喜ぶことができなかった。本当の意味で安心できるのは、こちらが片付いてからということになるだろう。
「えっと、お二人の方は中々に難航しているようですね?」
「ああ、こちらについては少々厄介なことになっている。母上は毒のことなど知らぬ存ぜぬの一点張りだ」
「本人の自白はない以上、透明な毒などという存在を解き明かすことは難しい。故に今、我々は手をこまねいているのが現状だ」
私のお父様とは違い、ドルピード伯爵夫人は息子を手にかけるようなことはしようとしなかったらしい。
彼女のその苛烈な嗜虐的欲求は、あくまでもラナーシャやその母に向けられているものであるそうだ。目の前にいる実の息子二人には、母親としての愛情を持っているらしい。
その二面性も、彼女の恐ろしい部分ではある。
「本人が罪を認めない以上、証拠を示すしかない。しかしながら知っての通り、透明な毒は検出されない毒だ。故に、証拠を示すことはできない」
「俺とマグナスが追及して落ちない母上を、他の者が落とせるとも思えない。故に我々は、次なる手を考えているという訳だ」
「なるほど、そうですね……」
二人はきっと、それなりに強く追及したのだろう。それでも落ちなかった夫人は、相当に手強い相手であるらしい。
そんな彼女を追い詰める方法、それを私はすぐに思いついた。効果があるかどうかはわからないが、とりあえずやってみてもいいだろう。
「お二人とも、私に一つ提案があります。これは、お二人にとって非常に辛い作戦のような気がしますが……」
「いや、それは構わない。母上がその罪を認めるなら苦労など些細なことだ。兄上も、そうだろう?」
「もちろんだとも。アラティア嬢、あなたは一体何を考えているのだ?」
「方法はとても簡単です。お二人はこの屋敷で暮らしてください。して欲しいことは二点です。食べ物に気を付けることと夫人に気を付けさせること。それだけです」
「それは?」
「なんとも……」
私の言葉に、二人は顔を見合わせた。
しかしきっと、これで夫人を追い詰めることはできるはずだ。私が思っている通りなら。
義母は納得していなかったが、彼女の秘密をイレーヌが告発したことによって、彼女は窮地に立たされてそれ所ではなくなった。結果的に、義母イピリナは伯爵家を去ったのである。
イレーヌは母親とともにいかず、とある神父の元へと向かった。そんな彼女と別れてから私が向かったのは、ドルピード伯爵家の屋敷である。
客室に通された私は、目の前で複雑な顔をしている夫と義理の兄を見ながら考える。今の二人に、なんと伝えればいいのだろうかと。
「……とにかく、そちらの問題が片付いたなら良かった」
「ああ、ええ、そうね。お陰様で、なんとか解決することができたわ」
そんなことを考えている内に、マグナスの方から私に言葉をかけてきた。
色々とあったが、私の方は概ね全ての因縁を解決することができたといえるだろう。それはもちろん、嬉しいことではある。
ただ、このドルピード伯爵家に渦巻く問題が解決していないという事実に、私は素直に喜ぶことができなかった。本当の意味で安心できるのは、こちらが片付いてからということになるだろう。
「えっと、お二人の方は中々に難航しているようですね?」
「ああ、こちらについては少々厄介なことになっている。母上は毒のことなど知らぬ存ぜぬの一点張りだ」
「本人の自白はない以上、透明な毒などという存在を解き明かすことは難しい。故に今、我々は手をこまねいているのが現状だ」
私のお父様とは違い、ドルピード伯爵夫人は息子を手にかけるようなことはしようとしなかったらしい。
彼女のその苛烈な嗜虐的欲求は、あくまでもラナーシャやその母に向けられているものであるそうだ。目の前にいる実の息子二人には、母親としての愛情を持っているらしい。
その二面性も、彼女の恐ろしい部分ではある。
「本人が罪を認めない以上、証拠を示すしかない。しかしながら知っての通り、透明な毒は検出されない毒だ。故に、証拠を示すことはできない」
「俺とマグナスが追及して落ちない母上を、他の者が落とせるとも思えない。故に我々は、次なる手を考えているという訳だ」
「なるほど、そうですね……」
二人はきっと、それなりに強く追及したのだろう。それでも落ちなかった夫人は、相当に手強い相手であるらしい。
そんな彼女を追い詰める方法、それを私はすぐに思いついた。効果があるかどうかはわからないが、とりあえずやってみてもいいだろう。
「お二人とも、私に一つ提案があります。これは、お二人にとって非常に辛い作戦のような気がしますが……」
「いや、それは構わない。母上がその罪を認めるなら苦労など些細なことだ。兄上も、そうだろう?」
「もちろんだとも。アラティア嬢、あなたは一体何を考えているのだ?」
「方法はとても簡単です。お二人はこの屋敷で暮らしてください。して欲しいことは二点です。食べ物に気を付けることと夫人に気を付けさせること。それだけです」
「それは?」
「なんとも……」
私の言葉に、二人は顔を見合わせた。
しかしきっと、これで夫人を追い詰めることはできるはずだ。私が思っている通りなら。
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