一年後に離婚すると言われてから三年が経ちましたが、まだその気配はありません。

木山楽斗

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27.情があるなら

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「……一体、私に何のようですか?」
「ふん。久し振りの帰郷であるというのに、随分と不機嫌そうだな?」
「当り前でしょう。喜べるはずがありません」

 ラグナメルの町から帰ってきた私は、すぐにカルロム伯爵家へと帰ることになった。
 それは、お父様から呼び出されたからである。彼はとにかく私に帰って来るように、要求してきたのだ。

 タイミングからして、それは私がラグナメルの町へと行ったからなのだと思う。
 恐らくお父様は、私に何かしらの釘を刺すつもりなのだ。いや、あるいは彼はもっと非道なことを考えているかもしれない。

「……誰も連れてきてはいないのか?」
「ええ、そういう要求でしたから」
「旦那はどうしている?」
「マグナス様は、ドルピード伯爵家に向かいました。奇妙なことに、彼も同じタイミングで帰るように言われましたから」

 マグナスも、ドルピード伯爵夫人から呼ばれたことによって、私達は自分達が監視されているという事実を理解した。
 色々と考えたが、私達はとりあえず呼び出しには応じることにした。二人の手元に例の毒があるという事実から、従う方が得策だと考えたのだ。
 万が一にも、油断している時にその毒を使われたら敵わない。対策を立てることができるため、相手の要求には乗る方がいいと思ったのだ。

「それならば、わかっているだろう。ラグナメルの町に行ったな? そこで一体、何を見たのだ」
「さあ、それはどうでしょうね」
「ふん。気に入らんな。そういう所は母親に似たか……」

 そこで、お父様はゆっくりと立ち上がって窓際に行った。
 外の景色を見ながら、お母様のことを思い出しているのだろうか。
 お父様は、何やら色々なことを言っている。そのほとんどは、お母様に対する罵倒であるため私は聞き流すことにする。

「昔からあいつはそうだった。この私に逆らう愚か者だったのだ。あれと結婚したという事実は、私にとって忌々しい過去だ」

 お父様の愚痴を聞くよりも、私にはやるべきことがあった。
 それは目の前にある紅茶のことだ。ここに来た時に、メイドが持ってきたこの紅茶は本当にただの紅茶なのだろうか。
 とりあえず、口をつけることは得策ではないだろう。勧められても飲まないことを心掛けるべきである。

 しかし私は思っていた。いくらお父様でも、実の娘を手にかけるようなことはしないのではないかと。
 彼は私を助けてくれなかったが、危害を加えては来なかった。もしかしたら、私に対する多少の情があるのかもしれない。

 それを確かめるために、私は紅茶を手に取った。
 そしてそれを、お父様の側にある紅茶と密かに入れ替える。

「言っておくが、余計なことを考えるなよ。私はこれでも、お前のことは尊重しているつもりだ。お前が余計なことをしなければ、こちらもそっとしておく。それでいいだろう」
「……」

 席に戻ってきたお父様は、紅茶を手にしている私を見て自分の手元にある紅茶を手に取った。
 彼は特に躊躇することなく、それに口をつける。その後、紅茶を置いてから私の方にそっと目を向けてきた。

「………………おごっ」

 次の瞬間、お父様はゆっくりと床に倒れ込んだ。
 それを見て、私は理解する。やはり私に出した紅茶の中には、毒が仕込まれていたのだということを。
 その事実に、私は思わず笑ってしまった。本当にお父様が、どうしようもない程の屑だということがよくわかったからだ。
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