一年後に離婚すると言われてから三年が経ちましたが、まだその気配はありません。

木山楽斗

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21.似た境遇

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「聞いてしまったんです。ドルピード伯爵夫人が話しているのを……私の母を殺したと、彼女は確かにそう言っていました」
「……」
「もちろん彼女は母を追い詰めていましたから、そういう意味なのかもしれません。でも、私は思っています。夫人が私の母を――方法はわかりませんが、殺したのだと」

 ラナーシャは、真剣な面持ちで私にその事実を伝えてきた。
 その発言に、私は驚いていた。内容はもちろんのこと、私と同じであるという点についても。

 元々私達は似た境遇だと思っていたが、そこまで一致しているとは驚きだ。
 もっとも、彼女の場合は夫人から聞いているという大きな違いがある。私のぼんやりとした疑いと同じにしては失礼かもしれない。

「この事実を、お兄様方には伝えていません。これを伝えることによって、ドルピード伯爵家が崩壊する可能性があるからです」
「……でも、あなたの本心は違うのね?」
「ええ、もちろんです。私は……母を殺した夫人を許したくはありません」

 ラナーシャは、悲痛な面持ちであった。今まで気遣って我慢してきたことが、その表情から伝わってくる。
 そんな彼女になんと言葉をかけるべきか、私は考えていた。二人に事実を伝えろというのは簡単だ。しかし、その発言を私がするのはひどく無責任であるようにも思えた。

 夫人の過去の罪を暴くというならば、私自身も覚悟を決めなければならないだろう。
 しかし、私にそんな資格があるのだろうか。何れこの屋敷を去るというのに。

「一つだけ、あなたに伝えておきたいことがあるの」
「伝えておきたいこと?」
「ええ、私の過去の話はしたわよね? 私もね、思っているのよ。母が父に殺されたのではないかと……」

 そこで私は、先に自分が抱えている事情を話すことにした。
 それを話すことによって、私自身の心も整理することができると思ったからだ。
 その説明に対して、ラナーシャは目を丸めている。やはり彼女も驚いているようだ。

「私の方は、ただの疑いでしかないわ。あなたのように、何かを聞いただとかそういう訳ではない。でも、父ならやりかねないと思っているの。あの人は冷酷だから……母以外に彼が手にかけた人物は、知っているしね」
「……」
「私とあなたは、きっと同じなのでしょうね……私は必ず、父の罪を暴くつもりよ。まあ、本当に病死ということもあるのかもしれないけれど」
「アラティア様……」

 私は、ゆっくりと自分の本心をラナーシャに打ち明けた。
 その言葉を受けて、ラナーシャの表情は変わる。強く凛々しいものに。
 つまり彼女は、決意したということなのだろう。それなら私も覚悟を決めなければならない。彼女やマグナス様と一緒に、真実を暴く覚悟を。
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