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10.気安く接して
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「疑ってしまって、申し訳なかったな」
「ああいえ、別に構いません」
「……ああ、もちろん俺は君が誰とどうなろうと構わないと思っている。その点に関しては、君と同じだ。その意思を尊重しよう」
「そうですか……」
少し落ち込んでいた私は、マグナス様の言葉に生返事を返していた。
しかしよく考えてみれば、彼もすごいことを言っている。浮気してもいいなんて夫が言ってくるなんて、とんでもないことだろう。
だが、それが私達の関係性だ。そこはお互いに納得しているのだから、気にするべき点ではない。
ただ、考えれば考える程少し変な気持ちになってきた。
やはり仮に一年後に終わるとしても、浮気は良くないのではないだろうか。そんな風に考えてしまう。
「……あれ? そういえば、マグナス様はご自分のことを俺と言っていたでしょうか?」
「む……?」
「確か以前は、私と仰っていたような気がするのですけれど……」
そこで私は、とあることに気付きそれを指摘した。
マグナス様の一人称が、変わっているのだ。今まで気付いていなかったが、それは結構大きな変化であるような気がする。
「何か心境の変化でもあったのですか?」
「……そうなのかもしれないな」
「曖昧ですね?」
「いや、自分でも気付いていなかったのだ。言われてみれば、俺は少し素が出ているらしい」
「素ですか?」
マグナス様は、驚いたような顔をしていた。
どうやら、意識して一人称を変えた訳ではないらしい。そちらの方が素ということは、私に少し気を許してくれたということなのだろうか。
「君に対して、気安く接してしまっているか……」
「ああ、いえ、それは構いませんよ。別に悪いことではないでしょう?」
「なるほど、それならこのままでいいだろうか」
「ええ、いいですとも」
別にマグナス様の一人称に不満はない。一年の期限付きではあるが、私達は夫婦だ。気安く接する方が、むしろそれらしいとさえいえるだろう。
「それなら、君も態度を改めてくれないか?」
「私、ですか?」
「ああ、君もそれが素という訳ではないのだろう。別に俺に遠慮する必要はない。そうだな……ラナーシャに接するように、接してくれないだろうか?」
「えっと……」
マグナス様の提案に、私は言葉を詰まらせることになった。
色々と聞いてから、私はラナーシャに砕けた態度で接している。ただそれは、彼女に親近感を抱いていて、年下でもあるからだ。
その態度をマグナス様に向けるというのは難しい。ただきっと彼はそういうことが言いたい訳ではないのだろう。
それを理解して、私はなんとか心を決める。
「それじゃあ、遠慮なくこんな感じでいいのかしら?」
「ああ、それでいい。我々は対等なのだからな」
「対等……ふふ、それは良い言葉ね」
私とマグナス様は、そんなことを言いながら笑い合った。
なんというか、彼とかなり打ち解けられたような気がする。それはきっと、いいことなのだろう。
「ああいえ、別に構いません」
「……ああ、もちろん俺は君が誰とどうなろうと構わないと思っている。その点に関しては、君と同じだ。その意思を尊重しよう」
「そうですか……」
少し落ち込んでいた私は、マグナス様の言葉に生返事を返していた。
しかしよく考えてみれば、彼もすごいことを言っている。浮気してもいいなんて夫が言ってくるなんて、とんでもないことだろう。
だが、それが私達の関係性だ。そこはお互いに納得しているのだから、気にするべき点ではない。
ただ、考えれば考える程少し変な気持ちになってきた。
やはり仮に一年後に終わるとしても、浮気は良くないのではないだろうか。そんな風に考えてしまう。
「……あれ? そういえば、マグナス様はご自分のことを俺と言っていたでしょうか?」
「む……?」
「確か以前は、私と仰っていたような気がするのですけれど……」
そこで私は、とあることに気付きそれを指摘した。
マグナス様の一人称が、変わっているのだ。今まで気付いていなかったが、それは結構大きな変化であるような気がする。
「何か心境の変化でもあったのですか?」
「……そうなのかもしれないな」
「曖昧ですね?」
「いや、自分でも気付いていなかったのだ。言われてみれば、俺は少し素が出ているらしい」
「素ですか?」
マグナス様は、驚いたような顔をしていた。
どうやら、意識して一人称を変えた訳ではないらしい。そちらの方が素ということは、私に少し気を許してくれたということなのだろうか。
「君に対して、気安く接してしまっているか……」
「ああ、いえ、それは構いませんよ。別に悪いことではないでしょう?」
「なるほど、それならこのままでいいだろうか」
「ええ、いいですとも」
別にマグナス様の一人称に不満はない。一年の期限付きではあるが、私達は夫婦だ。気安く接する方が、むしろそれらしいとさえいえるだろう。
「それなら、君も態度を改めてくれないか?」
「私、ですか?」
「ああ、君もそれが素という訳ではないのだろう。別に俺に遠慮する必要はない。そうだな……ラナーシャに接するように、接してくれないだろうか?」
「えっと……」
マグナス様の提案に、私は言葉を詰まらせることになった。
色々と聞いてから、私はラナーシャに砕けた態度で接している。ただそれは、彼女に親近感を抱いていて、年下でもあるからだ。
その態度をマグナス様に向けるというのは難しい。ただきっと彼はそういうことが言いたい訳ではないのだろう。
それを理解して、私はなんとか心を決める。
「それじゃあ、遠慮なくこんな感じでいいのかしら?」
「ああ、それでいい。我々は対等なのだからな」
「対等……ふふ、それは良い言葉ね」
私とマグナス様は、そんなことを言いながら笑い合った。
なんというか、彼とかなり打ち解けられたような気がする。それはきっと、いいことなのだろう。
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