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9(メーリア視点)
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私は、お姉様とお父様が、玄関で訪問してきた獣人の国の第二王子と挨拶している場面を陰から見ていた。
お姉様は、強大な体を持つ恐ろしい獣人に対して、笑顔で接している。その胆力は、流石というべきだろう。
私には、あんなことはとてもできない。獅子の獣人など、肉食で最も恐ろしい部類の獣人だ。そんな獣人と握手を交わすお姉様は、素直にすごいと思う。
「さて、そろそろ部屋に行きましょうか? いつまでも、ここで話す必要もないですからね」
「ええ、それでは案内してもらっていいでしょうか?」
「ええ」
お父様の言葉で、その場にいる全員が動き始めた。
いつまでも玄関で話す必要もないので、部屋に行くのだろう。
私は、陰に隠れて、それを見つめる。本当に、お姉様達が大丈夫なのか、見ていたかったからだ。
「む……」
「え?」
その瞬間、王子の後ろに仕えていた獣人がこちらの方を見てきた。私は咄嗟に姿を隠したが、誰かが見ていたという事実には気づいているだろう。
気づいたのは、虎の獣人だ。恐らく、第二王子の護衛か何かだろう。そんな彼が、王子を見る私に対して疑念を持つのは当然のことである。
「どうしよう……」
虎の獣人が、ゆっくりと歩いてくるのを見て、私は固まっていた。
逃げればいいはずなのだが、何故か足は動いてくれない。恐怖で、動かなくなっているようだ。
そのまま、虎の獣人はこちらにやって来た。彼が傍までやって来て、私は思わず尻餅をついてしまう。
「なっ……大丈夫ですか?」
「あ、う、えっ……?」
情けなく体勢を崩した私に、虎の獣人は心配そうな目を向けてきた。
流石、王子の護衛をしているだけはある。服装などから、私がこの屋敷の令嬢であると気づいたのだろう。その態度は、とても柔らくなっている。
そんな彼に対して、私はとても怯えていた。態度が柔らかくなろうとも、相手は人間を食べるような獣人だ。正直、とても怖い。
「レオード様に誰かが視線を向けているとは思いましたが、まさかあなたのようなお嬢さんだったとは思っていませんでした。驚かせてしまい、申し訳ありません……」
「い、いえ……」
「起き上がれますか? 良かったら、手を貸しましょうか?」
「え、えっと……」
虎の獣人の手を、私は取ることができなかった。
その大きな手は、人間を簡単に引き裂けるような爪を有しているはずだ。そんな手を取ることは、怖くてできないのだ。
「どうかしましたか?」
「そ、その……」
「ライガー、無理」
「む?」
そこで、私達の耳に女性の声が入ってきた。
声の方向を見てみると、そこには兎の獣人がいる。彼女も、王子の傍についていた獣人だ。もしかしたら、護衛の一人が中々帰って来ないため、様子を見に来たのだろうか。
お姉様は、強大な体を持つ恐ろしい獣人に対して、笑顔で接している。その胆力は、流石というべきだろう。
私には、あんなことはとてもできない。獅子の獣人など、肉食で最も恐ろしい部類の獣人だ。そんな獣人と握手を交わすお姉様は、素直にすごいと思う。
「さて、そろそろ部屋に行きましょうか? いつまでも、ここで話す必要もないですからね」
「ええ、それでは案内してもらっていいでしょうか?」
「ええ」
お父様の言葉で、その場にいる全員が動き始めた。
いつまでも玄関で話す必要もないので、部屋に行くのだろう。
私は、陰に隠れて、それを見つめる。本当に、お姉様達が大丈夫なのか、見ていたかったからだ。
「む……」
「え?」
その瞬間、王子の後ろに仕えていた獣人がこちらの方を見てきた。私は咄嗟に姿を隠したが、誰かが見ていたという事実には気づいているだろう。
気づいたのは、虎の獣人だ。恐らく、第二王子の護衛か何かだろう。そんな彼が、王子を見る私に対して疑念を持つのは当然のことである。
「どうしよう……」
虎の獣人が、ゆっくりと歩いてくるのを見て、私は固まっていた。
逃げればいいはずなのだが、何故か足は動いてくれない。恐怖で、動かなくなっているようだ。
そのまま、虎の獣人はこちらにやって来た。彼が傍までやって来て、私は思わず尻餅をついてしまう。
「なっ……大丈夫ですか?」
「あ、う、えっ……?」
情けなく体勢を崩した私に、虎の獣人は心配そうな目を向けてきた。
流石、王子の護衛をしているだけはある。服装などから、私がこの屋敷の令嬢であると気づいたのだろう。その態度は、とても柔らくなっている。
そんな彼に対して、私はとても怯えていた。態度が柔らかくなろうとも、相手は人間を食べるような獣人だ。正直、とても怖い。
「レオード様に誰かが視線を向けているとは思いましたが、まさかあなたのようなお嬢さんだったとは思っていませんでした。驚かせてしまい、申し訳ありません……」
「い、いえ……」
「起き上がれますか? 良かったら、手を貸しましょうか?」
「え、えっと……」
虎の獣人の手を、私は取ることができなかった。
その大きな手は、人間を簡単に引き裂けるような爪を有しているはずだ。そんな手を取ることは、怖くてできないのだ。
「どうかしましたか?」
「そ、その……」
「ライガー、無理」
「む?」
そこで、私達の耳に女性の声が入ってきた。
声の方向を見てみると、そこには兎の獣人がいる。彼女も、王子の傍についていた獣人だ。もしかしたら、護衛の一人が中々帰って来ないため、様子を見に来たのだろうか。
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