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 私は、アルファンド子爵家の祖先がフェリオスの祖先に送った手紙を読んでいた。
 ただ、この手紙は既に亡くなった友人に向けたものであるようだ。届くことがない手紙を書いたご先祖様の気持ちを思うと、なんだか少し胸が痛くなってくる。

「えっと……故にこの金塊を私は使わないことにする。これは、私の子や孫に託そうと思っている。もしも彼らに野心があるなら、きっとこの財産を生かしてくれるだろう」

 友人を失った穴は大きかったのだろう。ご先祖様は、これ程の財産を使おうと思わなかった。
 彼の中で、どれだけフェリオスのご先祖様は大きな存在だったのだろうか。それは、なんとなくわかる。
 なぜなら、私にも彼と同じようにフェリオスがいるからだ。彼がいなくなったらと思うと、ご先祖様の気持ちが察せられる。それはきっと、身を引き裂かれるようなことだろう。

「そして、私はこの金塊を隠している部屋の鍵を、君の子供に託そうと思っている。彼は、もうアルファンド子爵家の立派な使用人だ。彼になら、これを託せる。私と君が見つけたこの宝物は、私達の子供に託すことにしよう」
「……その鍵が、これだということですか」
「……そういうことのようね」

 そこまで読んで、私は手紙を封筒の中にしまった。
 まだ続きはあったが、そこからは二人の思い出が綴られていただけだったからだ。それを読んでもいいのだが、なんだか読んではいけないもののような気がしたのである。

「でも、おかしいですね……どうしてこの金塊は残っていたのでしょうか? 子供に託したというなら、そこで使われていてもおかしくはないはずなのに……」
「そうね……なんというか、おかしな話だわ」

 手紙を読み終わっても、疑問は残っていた。
 この金塊が、まだここにあるということ。それは、よくわからないことである。
 子供に託されて、そこで使われた訳ではない。まさか、私の代になるまで、誰も野心を抱かなかったというのだろうか。

「……ああ、そういえば」
「フェリオス? どうかしたの?」
「いえ、思い出したのです。私の家は、代々アルファンド子爵家に仕えていました。ただ、一時期アルファンド子爵家を離れたことがあると」
「そうだったの?」
「ええ、あまり言いたことではありませんが、子爵家の当主があまりいい人物ではなかったことがあったらしくて……」
「そうなのね……ということは……」

 フェリオスの言葉で、私は理解した。
 この金塊が、この時代まで残っていたのは、二つの家の信頼関係が崩れたからなのだと。
 主従関係に不和が起こって、この部屋は開かずの間となった。それは、納得できることだ。

「でも……お父様は、知っていた。この部屋の鍵をあなたが持っているということを……ということは、お父様とあなたのお父様は、この部屋のことを知っていたのかしら?」
「そうかもしれません……ただ、私の父は亡くなりました。だから……」
「なるほど、ご先祖様と同じ判断をしたということね……」

 お父様とフェリオスのお父様は、仲が良かったと聞いている。
 だから、お父様はご先祖様と同じようにこの部屋を私達に託すことにしたのだろう。
 結果として、私達はこの部屋を開けることができた。それは、私とフェリオスが信頼し合っていたから。そう思っていいのだろう。

「残念ながら、成り上るのに使える訳ではないけれど……」
「ええ……ですが、子爵家を存続させることはできます」
「今は、それが最優先といった所ね」

 この金塊を、ご先祖様が思っていた用途で使うことはできない。今の子爵家に、そんな余裕はないからだ。
 それは、少し残念なことである。ご先祖様にも、謝らなければならないだろう。
 しかし、これで子爵家は救われる。今は、それだけを考えることにしよう。
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