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 私は、食堂の机にフェリオスと対面する形で座っていた。
 腰が抜けてしまったので、しばらくここで休むことにしたのだ。

「本当に、申し訳ありませんでした。つい出来心で……」
「とんでもないことをしてくれたわね」

 フェリオスも反省していることだし、許してあげていいだろう。怒っていると、まるで私が怖がっていたかのようだし。
 そう思った私だったが、口から出てきたのは、考えと逆の言葉だった。私の中にある確かな怒りが、私の口を勝手に動かしたのだ。

「すみません……でも、変わっていなかったのですね、暗闇が苦手ということは……」
「べ、別に苦手ではないわよ……」
「そうやって誤魔化そうとする所も、変わっていませんね」

 フェリオスは、笑っていた。その様子に、私はあることを思い出す。
 そういえば、彼とは以前もこんなやり取りをしたことがあるのだ。思い返してみると、私は幼い頃も同じように誤魔化していたような気がする。

「……」
「あ、すみません……」

 それを思い出して、私は無性に恥ずかしくなっていた。
 私は、まったく進歩がない。そのように思ってしまったからだ。
 子供の頃と変わらない。それはいい時もある。だが、今回は悪い時だ。子供みたいに意地を張っていた。それは、恥じるべきことだろう。

「はあ、私、進歩がないのね……」
「え? あ、いや、そんなことはありませんよ」
「そうかしら? でも、前と同じような反応をしてしまった訳だし……」
「いえ、お嬢様は進歩しています。私は、それを今回の出来事で改めて実感しましたよ?」
「そ、そうなの?」

 フェリオスは、私の目を見てしっかりと私の言葉を否定してきた。
 彼がこういう目をしているということは、その言葉は嘘ではないだろう。その真摯な目は、何よりも信頼できる。

「あなたは、貴族としての振る舞いを崩そうとしませんでした。皆を思いやり、毅然と対処して、とても立派な姿だったと思います」
「そう言ってもらえるのは、ありがたいわね……」
「私は、改めてあなたに尽くしたいと思いました……子爵家の令嬢であるとか、そういうことではなく、あなたのために生きたいとそう思ったのです」
「そ、それは……ありがとう」

 お礼を言ってから、私は目の前にあった水を飲んだ。
 こうも真っ直ぐにこんなことを言われると、どうも恥ずかしくなってくる。もちろん、ありがたいのだが、顔から火が出てきそうだ。
 考えてみれば、彼のこういう一直線な所は昔から変わっていない。その実直さは、私には眩しすぎるくらいだ。
 だが、目をそらしてはならない。なぜなら、彼が仕える主人として、その眩しさに向き合うのが義務だと思っているからだ。
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