上 下
6 / 17

しおりを挟む
 目を覚まして、私は先程の光景が夢だったということを理解した。
 フェリオスとの出会いを改めて思い出すなんて、私はどうしたのだろう。なんだか、少し恥ずかしくなってくる。

「……って、まだ夜じゃない」

 辺りを見渡してみると、まだ暗い。どうやら、夜中に目を覚ましてしまったようだ。
 時計を見てみると、まだ三時だった。眠ったのがいつかはわからない。ただ、十時に布団に入って、最後に時計を見たのは一時だったので、最高でも二時間くらいしか眠れていないということになる。

「……喉が渇いたわね」

 そこで、私はそんなことに気がついた。
 フェリオスの夢を見て恥ずかしくなったことで、私の体は水分を欲しているようだ。
 私は、ゆっくりとベッドの上から立ち上がる。このままでは眠れそうにないので、とりあえず水でも飲みに行こうと思ったのだ。

「夜というのは、あんまり得意ではないわね……」

 部屋を出て、暗い廊下を歩きながら、私は少し怯えていた。
 夜に歩くというのは、そこまで好きではない。極端に苦手という訳ではないが、できることなら出歩きたくはない時間帯である。
 使用人の多くが、既に屋敷からいなくなっていることもあって、人がいないとわかっているというのも結構辛い。何かあった時叫んでも、誰も助けに来てくれないというのは、私の恐怖を加速させる。

「……あれ?」

 しばらく歩いて、私は食堂に明かりがついていることに気づいた。
 こんな時間に、食堂に明かり。一体、なんなのだろうか。
 まさかとは思うが、幽霊の類とかだろうか。いや、そんなはずはない。私は、幽霊なんて信じない。

「……………………フェリオス?」
「お嬢様? どうかされましたか?」

 恐る恐る食堂を覗いてみると、そこにはフェリオスがいた。
 彼は、その手にコップを持っている。どうやら、同じような目的でここに来たようだ。

「よ、よかった……」
「え?」
「あ、いや、なんでもないのよ」

 私は、思わず口から出た素直な気持ちを必死に誤魔化した。
 この年で幽霊が怖いなどとフェリオスに勘違いされたくはないからだ。

「……わっ!」
「きゃあ!」

 そんな私に、フェリオスは突如大きな声を出してきた。
 それに驚き、私は思わず腰を抜かしてしまう。

「おおっと!」
「え? あっ……!」

 私が尻餅をつく前に、フェリオスが支えてくれた。
 彼は、気まずそうな顔をしている。流石に、自分がしたことが申し訳ないと思っているようだ。

「す、すみません、お嬢様……まさか、そんなに驚くとは思っていなくて……」
「べ、別に驚いてはいないわ。怖がってもいないから」
「そ、そうですか……」

 私の言葉に、フェリオスは苦笑いをしていた。
 その表情は、まるで私の言っていることが嘘だと思っているかのような顔だ。
 もしかして、彼にはお見通しなのだろうか。実は私が、幽霊などが大の苦手であるということが。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

始まりはよくある婚約破棄のように

メカ喜楽直人
恋愛
「ミリア・ファネス公爵令嬢! 婚約者として10年も長きに渡り傍にいたが、もう我慢ならない! 父上に何度も相談した。母上からも考え直せと言われた。しかし、僕はもう決めたんだ。ミリア、キミとの婚約は今日で終わりだ!」 学園の卒業パーティで、第二王子がその婚約者の名前を呼んで叫び、周囲は固唾を呑んでその成り行きを見守った。 ポンコツ王子から一方的な溺愛を受ける真面目令嬢が涙目になりながらも立ち向い、けれども少しずつ絆されていくお話。 第一章「婚約者編」 第二章「お見合い編(過去)」 第三章「結婚編」 第四章「出産・育児編」 第五章「ミリアの知らないオレファンの過去編」連載開始

第一王子様は妹の事しか見えていないようなので、婚約破棄でも構いませんよ?

新野乃花(大舟)
恋愛
ルメル第一王子は貴族令嬢のサテラとの婚約を果たしていたが、彼は自身の妹であるシンシアの事を盲目的に溺愛していた。それゆえに、シンシアがサテラからいじめられたという話をでっちあげてはルメルに泣きつき、ルメルはサテラの事を叱責するという日々が続いていた。そんなある日、ついにルメルはサテラの事を婚約破棄の上で追放することを決意する。それが自分の王国を崩壊させる第一歩になるとも知らず…。

本当に私がいなくなって今どんなお気持ちですか、元旦那様?

新野乃花(大舟)
恋愛
「お前を捨てたところで、お前よりも上の女性と僕はいつでも婚約できる」そう豪語するノークはその自信のままにアルシアとの婚約関係を破棄し、彼女に対する当てつけのように位の高い貴族令嬢との婚約を狙いにかかる。…しかし、その行動はかえってノークの存在価値を大きく落とし、アリシアから鼻で笑われる結末に向かっていくこととなるのだった…。

仕事ができないと王宮を追放されましたが、実は豊穣の加護で王国の財政を回していた私。王国の破滅が残念でなりません

新野乃花(大舟)
恋愛
ミリアは王国の財政を一任されていたものの、国王の無茶な要求を叶えられないことを理由に無能の烙印を押され、挙句王宮を追放されてしまう。…しかし、彼女は豊穣の加護を有しており、その力でかろうじて王国は財政的破綻を免れていた。…しかし彼女が王宮を去った今、ついに王国崩壊の時が着々と訪れつつあった…。 ※カクヨムにも投稿しています! ※アルファポリスには以前、短いSSとして投稿していたものです!

喋ることができなくなった行き遅れ令嬢ですが、幸せです。

加藤ラスク
恋愛
セシル = マクラグレンは昔とある事件のせいで喋ることができなくなっていた。今は王室内事務局で働いており、真面目で誠実だと評判だ。しかし後輩のラーラからは、行き遅れ令嬢などと嫌味を言われる日々。 そんなセシルの密かな喜びは、今大人気のイケメン騎士団長クレイグ = エヴェレストに会えること。クレイグはなぜか毎日事務局に顔を出し、要件がある時は必ずセシルを指名していた。そんなある日、重要な書類が紛失する事件が起きて……

出て行けと言われたのですから本当に出て行ってあげます!

新野乃花(大舟)
恋愛
フルード第一王子はセレナとの婚約関係の中で、彼女の事を激しく束縛していた。それに対してセレナが言葉を返したところ、フルードは「気に入らないなら出て行ってくれて構わない」と口にしてしまう。セレナがそんな大それた行動をとることはないだろうと踏んでフルードはその言葉をかけたわけであったが、その日の夜にセレナは本当に姿を消してしまう…。自分の行いを必死に隠しにかかるフルードであったが、それから間もなくこの一件は国王の耳にまで入ることとなり…。

役立たずの追放聖女は、可愛い神聖獣たちになつかれる唯一の存在でした

新野乃花(大舟)
恋愛
聖女の血を引くという特別な存在であることが示された少女、アリシラ。そんな彼女に目を付けたノラン第一王子は、その力を独り占めして自分のために利用してやろうと考え、アリシラの事を自身の婚約者として招き入れた。しかし彼女の力が自分の思い描いたものではなかったことに逆上したノランは、そのまま一方的にアリシラの事を婚約破棄の上で追放してしまう。すべてはアリシラの自業自得であるという事にし、深くは考えていなかったノランだったものの、この後判明するアリシラの特別な力を耳にしたとき、彼は心の底から自分の行いを後悔することとなるのであった…。

【完結】私、噂の令息に嫁ぎます!

まりぃべる
恋愛
私は、子爵令嬢。 うちは貴族ではあるけれど、かなり貧しい。 お父様が、ハンカチ片手に『幸せになるんだよ』と言って送り出してくれた嫁ぎ先は、貴族社会でちょっとした噂になっている方だった。 噂通りなのかしら…。 でもそれで、弟の学費が賄えるのなら安いものだわ。 たとえ、旦那様に会いたくても、仕事が忙しいとなかなか会えない時期があったとしても…。 ☆★ 虫、の話も少しだけ出てきます。 作者は虫が苦手ですので、あまり生々しくはしていませんが、読んでくれたら嬉しいです。 ☆★☆★ 全25話です。 もう出来上がってますので、随時更新していきます。

処理中です...