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 私は、ドルクス様の婚約者として過ごすことになった。
 まだ正式に結婚していないため、妻にはなっていない。だが、すぐにそうなるだろう。
 ただ、それも形式的なものだ。恐らく、私の生活は今と変わらないだろう。
 そもそも、これはアルネシア様の婚約である。私が本当にドルクス様の妻になるという訳ではないのだ。

「それで、調子はどうだ? この王城での生活は慣れたか? 何か不満などはないか?」
「えっと……」

 基本的に、私は与えられた部屋で過ごしている。私の待遇は悪くない。この部屋から出ることはほとんどないが、それも気にならない程にこれは幸福な生活だ。
 ふかふかのベッドに、豪勢な食事、部屋には娯楽だってある。何不自由のない生活に、不満などはない。

「ふむ……不満そうだな?」
「……」

 私の心を読んで、ドルクス様はそう言ってきた。
 実の所、私はこの生活に不満を感じている。この生活が幸福であればある程、私はこの生活に嫌気が差してくるのだ。

「ドルクス様、この王城での生活は、大変幸福なものであると思います。誰もが憧れるような裕福な暮らしです」
「しかし、お前は不満を抱いている……そうだな?」
「ええ……ただ、不満を抱いているといっても、これ以上裕福な生活を送りたいだとか、そういうことではありません。私は、私がこういう立場にいることが辛いのです」
「ふむ……」

 私の言葉に、ドルクス様は唸った。
 彼は、既に私の心を読んでいるだろう。だから、私が何を思っているかは理解しているはずだ。
 だが、私はそれを口にする。自分の思いを確かめるためにも、声に出すことにしたのだ。

「私がこんな生活を送っている間にも、妹やアルネシア様は窮屈な生活を送っています。妹に関しては、牢獄の中で生活をしているのです。だから、私は自分がこんな生活を送っていることが辛い……」
「……そうか」

 私の心の中にあるのは、自国にいる大切な人達のことだった。
 その人達のことを思うと、自分が幸福な生活を送っていることが嫌になる。自分だけがこんな生活を送るなんて、耐えられないのだ。

「……お前は、優しすぎるようだな」
「え?」
「ふむ……お前のような人間を犠牲にするなど許されることではない。だが、我々の計画は慎重に進める必要がある。すまないが、もう少しだけ待っていてもらいたいのだ」
「あ、いえ……ドルクス様が、謝るようなことではありません。こちらこそ、わがままなことを言って、申し訳ありません……」

 ドルクス様は、少し悲しそうな表情をしていた。
 彼が、私を思いやってくれていることがわかる。それは、とても嬉しかった。
 だが、私は彼にそういう顔をしてもらいたいと思っている訳ではない。彼に非があるという訳ではないのだから。
 しかし、心を読める彼に対して取り繕うことはできない。こんなにも優しい彼は、もしかしたらいつも誰かの心を読んで、心を痛めているのだろうか。そんな心配が、私の心の中を過るのだった。
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