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私は、ビルクト王国の戦力の恐ろしさを理解した。
彼らを敵に回して、果たして勝てるだろうか。そう考えた時、私はそれを不可能だと思った。
ドルクス様の力だけでも強力だ。それと同じような力を持つ者が複数いる。強力過ぎる戦力だ。勝てる訳がない。
「私のことが恐ろしいか?」
「……ええ、恐ろしいです。あなたというよりも、このビルクト王国という国が……」
「そうだろうな……この国は、強い力を持っている。世界を統べることもできる国だと、私は自負している。だが、私はそれを望んでいない」
「……ドルクス様は、争いを望んでいないのですね?」
「そうだ」
ドルクス様が穏やかな人で、本当によかったと私は改めて思った。
もしそうでなければ、二つの国で即刻争いが起こっていてもおかしくない状況だからだ。
強い力を持つが、それに溺れていない彼は、素晴らしい人であるといえるだろう。
「……だが、父上は違うのだ」
「違う?」
「父上は争いを望んでいる。世界を自らの力で手に入れようと思っているのだ。その足掛かりとして、ラフェイド王国への侵攻を考えている」
「なっ……」
ドルクス様の言葉に、私は少しだけ驚いた。
しかし、すぐに考えを改める。それは、別におかしいことではないのだと。
なぜなら、ラフェイド王も同じような考えだったからだ。彼も、隙があれば侵攻しようと考えていた。どうやら、どちらの国も真の意味で和平を結ぶ気など初めからなかったようである。
「もしも、私がこの目で真実を暴いたと知れば、父上はそれを口実にラフェイド王国へ侵攻するだろう。人質として、妹があちらの国にいるが、それも問題にはしていない。龍の力を持つ妹なら、単身でも助かると思っているのだろう」
「そ、そんな……」
「私は、父上に口実を与えるつもりはない。故に、お前は本物のアルネシアとして過ごしてもらう。お前としては、それで構わないはずだ」
「……しかし、私はラフェイド王国のスパイです。あちらの王から連絡があれば、動かざるを得ません」
二国間の争いは、私も望んでなどいない。
だが、私はラフェイド王に逆らえない立場にある。その目入れに背けば、妹の命はない。人質がいる限り、私はただのアルネシアとしては過ごせないのだ。
争いを起こさないために、妹の命を見捨てろ。もしかしたら、そう思われるかもしれない。
しかし、それは無理だ。私にとって、彼女は最後の希望である。自分の命が亡くなるのは構わないが、妹の命だけは見捨てることができないのだ。
「なるほど、お前の事情は理解した。ならば、こちらも手を打つとしよう……」
「え?」
「心配するな、悪いようにはしない。私に、任せておけ」
ドルクス様は、私の目を真っ直ぐに見ながらそう言ってきた。
恐らく、彼には何か考えがあるのだろう。それが一体何なのか、心を読めない私は知る由もない。
彼らを敵に回して、果たして勝てるだろうか。そう考えた時、私はそれを不可能だと思った。
ドルクス様の力だけでも強力だ。それと同じような力を持つ者が複数いる。強力過ぎる戦力だ。勝てる訳がない。
「私のことが恐ろしいか?」
「……ええ、恐ろしいです。あなたというよりも、このビルクト王国という国が……」
「そうだろうな……この国は、強い力を持っている。世界を統べることもできる国だと、私は自負している。だが、私はそれを望んでいない」
「……ドルクス様は、争いを望んでいないのですね?」
「そうだ」
ドルクス様が穏やかな人で、本当によかったと私は改めて思った。
もしそうでなければ、二つの国で即刻争いが起こっていてもおかしくない状況だからだ。
強い力を持つが、それに溺れていない彼は、素晴らしい人であるといえるだろう。
「……だが、父上は違うのだ」
「違う?」
「父上は争いを望んでいる。世界を自らの力で手に入れようと思っているのだ。その足掛かりとして、ラフェイド王国への侵攻を考えている」
「なっ……」
ドルクス様の言葉に、私は少しだけ驚いた。
しかし、すぐに考えを改める。それは、別におかしいことではないのだと。
なぜなら、ラフェイド王も同じような考えだったからだ。彼も、隙があれば侵攻しようと考えていた。どうやら、どちらの国も真の意味で和平を結ぶ気など初めからなかったようである。
「もしも、私がこの目で真実を暴いたと知れば、父上はそれを口実にラフェイド王国へ侵攻するだろう。人質として、妹があちらの国にいるが、それも問題にはしていない。龍の力を持つ妹なら、単身でも助かると思っているのだろう」
「そ、そんな……」
「私は、父上に口実を与えるつもりはない。故に、お前は本物のアルネシアとして過ごしてもらう。お前としては、それで構わないはずだ」
「……しかし、私はラフェイド王国のスパイです。あちらの王から連絡があれば、動かざるを得ません」
二国間の争いは、私も望んでなどいない。
だが、私はラフェイド王に逆らえない立場にある。その目入れに背けば、妹の命はない。人質がいる限り、私はただのアルネシアとしては過ごせないのだ。
争いを起こさないために、妹の命を見捨てろ。もしかしたら、そう思われるかもしれない。
しかし、それは無理だ。私にとって、彼女は最後の希望である。自分の命が亡くなるのは構わないが、妹の命だけは見捨てることができないのだ。
「なるほど、お前の事情は理解した。ならば、こちらも手を打つとしよう……」
「え?」
「心配するな、悪いようにはしない。私に、任せておけ」
ドルクス様は、私の目を真っ直ぐに見ながらそう言ってきた。
恐らく、彼には何か考えがあるのだろう。それが一体何なのか、心を読めない私は知る由もない。
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