悪役令嬢と攻略対象(推し)の娘に転生しました。~前世の記憶で夫婦円満に導きたいと思います~

木山楽斗

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37.良き変化が(ラムリア視点)

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 アルティリア様に頭を下げられて、私は彼女があの頃とは変わったということを改めて理解することになった。
 かつての彼女は、私を攻撃してきた。取り巻きの令嬢達と一緒に、様々な嫌がらせをしてきたことは今でも覚えている。
 それを止めてくれたのは、ファルクス様だった。彼女と取り巻きに囲まれた私を彼は助けてくれたのだ。

『平民を貴族が寄ってたかって……こんなことが許されると思っているのか?』
『……それをあなたが言いますか?』
『……君が何を思っているかは知らないが、どのような理由があってもこのような行為は許されないと僕は思う。彼女は何もしていないし、何も知らない。これは、僕と君の問題だろう? 彼女を巻き込む必要はない』
『それでは私の気が済まないのです!』

 あの時、二人はぶつかり合った。
 結果的に、それによってアルティリア様は私もファルクス様とも学園内では関わらないようになった。きっと、あの時の彼女は色々と複雑な思いを抱いていたのだろう。

『ラムリア、これからエグリクスと幸せにね』
『ありがとうございます、ファルクス様』
『ありがとう、ファルクス君。でも、君はこれからどうするんだい? アルティリア嬢と結婚して、そのまま生きていくのかい? それは中々、難儀な道だと思ってしまうが……』
『難儀な道か……だが、それを作ってしまったのは多分僕なのだろう』
『そうかい? まあ、そうなのかもしれないが……』

 卒業パーティーの日、私とエグリクス様はファルクス様とそのような会話をした。
 三年間という月日は、私達の関係性や考えを大きく変えた。それはきっと、アルティリア様にとっても同じことだったのだろう。
 かつて取り巻きを連れていた彼女は、あの時には既に一人になっていた。ファルクス様は、そんな彼女をただ悲しそうに見つめていた。その顔は、今でも鮮明に思い出せる。

『ただ、間違ったというなら彼女も同じではあるだろう? ラムリアにひどいことをしていたのは事実な訳だし……』
『それは……』
『そもそも、君は何もしていなかった……心の中で何を想おうが自由であると僕は思うよ。何かしていたら問題だったかもしれないけれど、ね?』
『エグリクス、君はいつまでも変わらないね……』
『それは……褒めているのかい?』
『ああ、褒めているとも、君が羨ましいのさ、僕は……』

 あれから、二人の間にはどのようなことがあったのだろうか。それは、私にはまったくわからない。
 だが、出迎えてくれた二人の笑顔を見れば、いい変化があったことはすぐに理解できた。それは幸せなことだと思う。
 私は、アルティリア様を許そうと思っている。私が許すと口にしなければ、彼女はきっと前に進めないだろう。

「……確かに、アルティリア様には色々なことを言われたりされたりしたと記憶しています。そのことで傷ついたこともありました」
「……ええ」

 彼女の謝罪に対して、私は全てを吐き出す。私は彼女の行いに対して、何かしらの言い訳をするつもりはない。
 私にも悪い所があった。仕方なかった。そういう言葉をかけるのは簡単ではあるが、今はそうするべきではないと思ったからだ。

「ですが、アルティリア様はそれを反省して悔やんで、こうして私に謝ろうとしてくれました。自らの過ちを認めるのはきっと辛かったでしょう……その顔を見ればわかります」
「……」

 私はあくまでも被害者の立ち位置を貫く。私が気を遣ったとアルティリア様に思わせないように。徹底的に彼女を加害者として扱う。
 彼女は、覚悟をして今この場に立っている。だから、私も覚悟するのだ。彼女を許す覚悟を決めるのだ。

「……ですから、私はあなたを許します。だから、頭を上げてください」

 長い沈黙の後、彼女はゆっくりと顔を上げた。
 彼女の顔は晴れやかだった。憑き物が落ちたように見える。
 凛として胸を張り立つ彼女を見ながら、私は思った。あの頃、取り巻き達とともに私を虐げていた彼女は、もういないのだと。
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