悪役令嬢と攻略対象(推し)の娘に転生しました。~前世の記憶で夫婦円満に導きたいと思います~

木山楽斗

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16.滑稽であっても(ファルクス視点)

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「私にできることがあったら遠慮せずに言ってください。一応、私もあなたの妻ですから」

 アルティリアは、僕にたいして淡々とそう言ってきた。
 言葉のトーン自体は平坦ではあるが、その言葉の内容は重みがある。故に僕は考える。
 もしかしたら、アルティリアはあの時のことに関して罪悪感を覚えているのかもしれない。動揺していたから、ファルミルをすぐに助けられなかったと。
 ただ、逆の立場なら僕もそうなっていたと確信できる。故にそれは責められるようなことではない。だが、いくら他者からそれを言われても彼女は納得しないだろう。

「……君はできることをやってくれている。僕の代わりに、ファルミルの傍についてくれている。今はそれで充分だ」
「……私は、あなたの代わりではありません」
「……む」

 気遣ったつもりで言った言葉に、彼女は淡々と反論をしてきた。
 確かに、僕の代わりというのはあまりいい表現ではなかったかもしれない。彼女は彼女の意思でファルミルの傍にいるのだから、これは不適切だ。

「ファルミルには、代わりなんていないのです。あの子にとって、私は私であなたはあなた……母親と父親のどちらも必要な存在なのです」
「……そうか。いや、そうだな。すまなかった」

 どうやら、僕はアルティリアという人間の器を読み違えていたようだ。
 彼女が語気を強くしたのは、ファルミルの気持ちを尊重してのことだったのだろう。当たり前のことだ。あの子は、父親の代わりに母親がいてくれるなんて絶対に思わない。どちらも求めているのだから、代わりなんていないのだ。

「……もしも仕事が大丈夫なら」
「む?」
「今日はファルミルの傍にいてあげてくれませんか?」
「それは……」

 そこで、アルティリアはそんな提案を申し出てきた。
 唐突な提案ではあるが、理由は理解できる。恐らく、彼女は先程自分が言った言葉を受け入れて、実行しようとしているのだろう。
 父親と母親が揃うこと、それがファルミルの望みだ。叶えるためには、僕と彼女がこの部屋にいる必要がある。

「いいのかい?」
「私はいいと思っています」
「そうか……」

 僕は思わずいらぬ問いかけをしていた。この提案をした彼女が、嫌という訳はない。
 つまり今の問いかけは、この提案を僕自身が嫌だと思っているから出てきた問いなのだろう。情けない話だ。僕はまだ、逃げようとしているのか。

「申し訳ないが、まだ少し仕事が残っているんだ」
「……そうですか」
「……故に、すぐに終わらせてくる。それまで待っているように、ファルミルに伝えておいてくれないか?」
「そ、そうですか……わかりました。それなら、待っています」
「ああ、待っていてくれ。それ程、時間はかからないと思う」

 アルティリアは、勇気を出して一歩踏み出してくれた。いつまでも悩んでいる僕とは違い、その精神はなんと気高いのだろうか。
 だから、僕も決意した。向き合う決意を固めたのだ。

「いや、何をかっこつけているんだ、僕は……」

 早足で執務室へと向かいながら、僕は笑っていた。
 考えてみれば、僕はただ妻と娘と過ごそうとしているだけだ。それなのに、どうしてかっこつけているのだろうか。それは、なんとも滑稽だった。自分でも笑ってしまう程に。
 だが、滑稽でも構わない。それでファルミルが笑顔になってくれるなら万々歳だ。
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