悪役令嬢と攻略対象(推し)の娘に転生しました。~前世の記憶で夫婦円満に導きたいと思います~

木山楽斗

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15.謝罪するべきこと(ファルクス視点)

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 ファルミルと会った後、僕はすぐに仕事に戻る。特に取り決めをしたという訳ではないが、自然とそうなっていた。使用人に何時何分から何時何分までファルミルの所に行く。そう伝えれば、妻は自然とその時間ファルミルの部屋からいなくなった。
 それはつまり、お互いに顔を合わせないようにするための措置だ。交代でファルミルの傍にいる。それが僕と妻との間で決められていたことだった。
 だから、目の前にいる彼女は驚いているのだろう。僕が、ファルミルの部屋の前に留まっていることに。

「……」
「……待ってくれ」

 アルティリアは、僕に軽く会釈をしてから、ファルミルの部屋に入ろうとした。
 しかし、僕はそれを止める。止めなければならない。今の僕は、アルティリアと話がしたいと思っている。
 同時に話したくないという気持ちもあるが、今はそれを振り払う。彼女と正面から向き合うことから、いつまでも逃げていてはいけない。

「……君に謝りたいことがあるんだ」
「謝る?」

 僕の言葉に、アルティリアは驚いたような顔をした。
 これは、切り出し方を間違えただろうか。なんというか、少し唐突過ぎる気がする。
 会話というものの切り出し方がわからない。僕達は一体、どのような挨拶を交わして、どのように話を始めていたのだろうか。それがわからない程に、僕と彼女は長い間面と向かって話していなかったのかもしれない。

「ファルミルが怪我をした日のことだ。僕は、君にひどいことを言ってしまった。それを謝りたかったんだ。すまなかった。言い訳をする訳ではないが、あの時は僕も冷静ではなかった……」
「……謝る必要なんてありません。あなたが、ああ言ってくれなければ、きっと私は慌てて何もできませんでした。むしろ感謝しています」
「そうか……」

 アルティリアからの返答に、僕は言葉を詰まらせてしまう。
 僕が謝罪して、彼女は許した。今の状況を端的に言い表すとそういうことになるだろう。
 つまり、これでこの会話は終わりだ。これ以上広がることはない。
 ならば、選択肢は二つだ。次の会話に移るか、会話そのものを終わらせるかのどちらかということになる。

「呼び止めてすまなかったね……ファルミルが待っているだろうから、行ってあげてくれ」

 結局、僕は会話を終わらせることを選んだ。
 僕は臆病だった。これ以上話して何か余計なことを言ってしまうのが怖かったのだ。

「……お仕事の方は、大丈夫なんですか?」
「え?」

 しかし、立ち去ろうとした僕にアルティリアは問いかけてきた。
 彼女の方から、新たな話題に移るとは思っていなかった。だがそれは、アルティリアが会話を望んでいるということだ。それには応えたい。そう思いながら、僕は恐怖を打ち払う。

「ああ、問題はない。無論、少し停滞しているものもあるが、特に大きな問題も起こってないし大丈夫だ」
「そうですか……」

 自分でも驚く程に、言葉はすらすらと出てきた。
 感覚が戻って来たような気がする。会話というものは、こういう風に自然と言葉を紡げるものだった。どうして、そんな簡単なことを忘れていたのだろうか。
 目の前の成熟した女性の姿が、少女と重なる。そういえば、初めて会った時にも緊張して上手く言葉が出てこなかった。
 それから少しして打ち解けて、気づいたら今のような関係になっていた。一体僕達は、どこで道を踏み外してしまったのだろうか。
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