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8.一緒の部屋で暮らすのは
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お父様が部屋を後にしてから、お母様がすぐに部屋に戻って来た。
二人一緒にいてくれないのは残念ではある。ただ、それでもほぼ欠かさず両親のどちらかと一緒にいられるというのは非常に嬉しい。
「お母様、少し聞いてもいいですか?」
「何かしら?」
「えっと……その、ここは私の部屋ですよね?」
「ええ、そうよ。それがどうかしたの?」
お父様とお母様は、私のことを避けていたという。
それはもちろん悲しいことではあるが、責めようなどとは思っていない。これから一緒にいてくれるなら、それでいいと思っている。
その上で聞いておきたいことがあった。それは、私がこの部屋を与えられた時のことだ。
「あの、この部屋を与えてくださった時、自立する必要があるからとお母様は言っていましたよね?」
「ええ、確かにそのように言ったわ」
「その意見は、今でも変わっていませんか?」
「それは……」
私の質問に、お母様は難しい顔をした。
その反応を見ればわかる。私に部屋を与えてくれたのは、私を避けていたこととは関係なく、起こり得ることだったのだと。
「ファルミルは、私かお父さんと一緒の部屋がいいの?」
「はい。できれば……そうですね、一緒の部屋がいいです」
できれば三人一緒がいいという言葉を私は呑み込んだ。今は、それを言っていい時ではないからである。
「寂しいの?」
「正直言って、寂しいです……」
「そう、そうよね……」
私は、この部屋の暮らしをそれ程幸福だと思っていなかった。
誰かに一緒にいて欲しい。ずっとそう思っていた。
もちろん、呼べばメイドさんは来てくれる。だけど、メイドさんはどうしても私に遠慮するので、一緒に部屋で過ごす相手としては適切ではないと感じてしまう。
一緒にいてお互いに心が安らぐ。できることなら、そういう相手と一緒の部屋で暮らしたい。それが私の素直な気持ちである。
「立派な貴族になるために自立することは大切だと思っているわ。だから、あなたに部屋を与えた。私も彼も、多分そういう気持ちだったと思うわ」
「は、はい……」
「でも、それは建前だったのかもしれないわね。今はそのように思えるわ。もちろん自立することが大切だという気持ちは変わっていないけれど、まだあなたを甘えさせてあげられていないのに部屋を与えるというのは間違っているわね」
「それじゃあ……」
お母様の言葉に、私は思わず笑顔を浮かべてしまう。
自分のわがままな願いが一つ叶えられようとしている。それを感じて、興奮せずにはいられない。
「ええ、これからは私と……あなたが望むのならお父さんと一緒の部屋ということにしましょうか。ああ、でもこれは少し難しい問題ね」
「難しい問題?」
「……選択肢というものは、あまり好ましくないものだと思うの。選ばれなかった方は傷ついてしまうわ」
「あっ……」
浮かれていた私は、何も言えなくなってしまった。
お母様と一緒の部屋で過ごすか、お父様と一緒の部屋で過ごすか、それは私にとって選べない選択である。
三人で一緒の部屋、それが私の望みではあるが、現状それを叶えるのは難しい。となると、どちらかを選ばなければならなくなる。とても苦しい選択だ。
「……ごめんなさい、お母様。今のは忘れてください。こうやって、時々お母様やお父様が遊びに来てくれるだけで、今は充分です」
「……ごめんなさいね」
お母様は、きっと私の言葉の意味を察してくれただろう。
いつか三人で一緒に過ごせる日が来ることを私は願っている。もしもその日が来たなら、二人と一緒の部屋で暮らしたい。
叶わない望みかもしれないが、それでいいと思っている。少なくとも、今の私には二人の内のどちらかを選ぶことなんてできないから。
二人一緒にいてくれないのは残念ではある。ただ、それでもほぼ欠かさず両親のどちらかと一緒にいられるというのは非常に嬉しい。
「お母様、少し聞いてもいいですか?」
「何かしら?」
「えっと……その、ここは私の部屋ですよね?」
「ええ、そうよ。それがどうかしたの?」
お父様とお母様は、私のことを避けていたという。
それはもちろん悲しいことではあるが、責めようなどとは思っていない。これから一緒にいてくれるなら、それでいいと思っている。
その上で聞いておきたいことがあった。それは、私がこの部屋を与えられた時のことだ。
「あの、この部屋を与えてくださった時、自立する必要があるからとお母様は言っていましたよね?」
「ええ、確かにそのように言ったわ」
「その意見は、今でも変わっていませんか?」
「それは……」
私の質問に、お母様は難しい顔をした。
その反応を見ればわかる。私に部屋を与えてくれたのは、私を避けていたこととは関係なく、起こり得ることだったのだと。
「ファルミルは、私かお父さんと一緒の部屋がいいの?」
「はい。できれば……そうですね、一緒の部屋がいいです」
できれば三人一緒がいいという言葉を私は呑み込んだ。今は、それを言っていい時ではないからである。
「寂しいの?」
「正直言って、寂しいです……」
「そう、そうよね……」
私は、この部屋の暮らしをそれ程幸福だと思っていなかった。
誰かに一緒にいて欲しい。ずっとそう思っていた。
もちろん、呼べばメイドさんは来てくれる。だけど、メイドさんはどうしても私に遠慮するので、一緒に部屋で過ごす相手としては適切ではないと感じてしまう。
一緒にいてお互いに心が安らぐ。できることなら、そういう相手と一緒の部屋で暮らしたい。それが私の素直な気持ちである。
「立派な貴族になるために自立することは大切だと思っているわ。だから、あなたに部屋を与えた。私も彼も、多分そういう気持ちだったと思うわ」
「は、はい……」
「でも、それは建前だったのかもしれないわね。今はそのように思えるわ。もちろん自立することが大切だという気持ちは変わっていないけれど、まだあなたを甘えさせてあげられていないのに部屋を与えるというのは間違っているわね」
「それじゃあ……」
お母様の言葉に、私は思わず笑顔を浮かべてしまう。
自分のわがままな願いが一つ叶えられようとしている。それを感じて、興奮せずにはいられない。
「ええ、これからは私と……あなたが望むのならお父さんと一緒の部屋ということにしましょうか。ああ、でもこれは少し難しい問題ね」
「難しい問題?」
「……選択肢というものは、あまり好ましくないものだと思うの。選ばれなかった方は傷ついてしまうわ」
「あっ……」
浮かれていた私は、何も言えなくなってしまった。
お母様と一緒の部屋で過ごすか、お父様と一緒の部屋で過ごすか、それは私にとって選べない選択である。
三人で一緒の部屋、それが私の望みではあるが、現状それを叶えるのは難しい。となると、どちらかを選ばなければならなくなる。とても苦しい選択だ。
「……ごめんなさい、お母様。今のは忘れてください。こうやって、時々お母様やお父様が遊びに来てくれるだけで、今は充分です」
「……ごめんなさいね」
お母様は、きっと私の言葉の意味を察してくれただろう。
いつか三人で一緒に過ごせる日が来ることを私は願っている。もしもその日が来たなら、二人と一緒の部屋で暮らしたい。
叶わない望みかもしれないが、それでいいと思っている。少なくとも、今の私には二人の内のどちらかを選ぶことなんてできないから。
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