悪役令嬢と攻略対象(推し)の娘に転生しました。~前世の記憶で夫婦円満に導きたいと思います~

木山楽斗

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5.向き合うために

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「ファルミル、具合はどうかしら?」
「あ、はい。大丈夫です」

 様子を見に来てくれたお父様が去ってから程なくして、お母様が私の部屋に戻って来た。
 まるで入れ替わるようなタイミングだ。いや、実際に入れ替わったのかもしれない。あまりにタイミングが良すぎるため、そう感じてしまう。

「お母様、先程お父様が訪ねて来て下さいました」
「……あら、そうなのね」
「やっぱりお忙しいみたいですね」
「ええ、そうね」

 お父様の話を振ってみると、お母様の顔が少し曇った。
 思い返してみると、どちらかにどちらかの話をするといつもそのような表情を返されていたような気がする。
 その曖昧な表情は、どのような感情を表しているのだろうか。私はそれを考える。

「でも、また戻って来てくれると言ってくれました。お仕事が終わったら、様子を見に来てくれると思います」
「そうなのね……」

 お母様は、お父様のことが嫌いという訳ではないはずだ。
 ゲームの中で、お母様は主人公と敵対する。その理由は、お父様が主人公に惹かれたからだ。
 婚約者を取られる。お母様はその事実が許せなかった。そこにはお父様に対する何かしらの想いがあったのではないだろうか。

「お母様は、今日はどうされるんですか?」
「え? ええ、基本的にはあなたの傍にいようと思っているわ」
「本当ですか? 嬉しいです。でも、大丈夫なんですか?」
「ええ、大丈夫よ。あなたのためだもの。無理してでも時間を作ってみせるわ」

 お母様は、お父様と同じようなことを言っていた。
 二人は、私のためなら無茶をしてくれる。それはとても嬉しい。
 でも、本当に大丈夫なのかは心配だ。お父様もお母様も、とても忙しいはずである。その皺寄せがきたりしないのだろうか。

「といっても、無理をする必要なんてないのかもしれないけれど……」
「そうなんですか?」
「……私もあの人も、きっとあなたから逃げていたのよ」
「逃げていた?」

 お母様は、私の頬を撫でながらそう言ってきた。
 優しい手つきが心地いいのに、なんだか物悲しい。それはきっと、お母様の感情がその手から伝わってきているからなのだろう。

「忙しいと言い訳をして、あなたと向き合って来なかった。今回の件で、それがわかったわ。ごめんなさい、あなたに寂しい思いをさせてしまって……」
「い、いえ、そんなことはありません……」

 お母様の絞り出すような声を聞いていると、なんだか胸が苦しくなってくる。
 でも、確かに今まで私は寂しい思いをしてきた。お母様もお父様も、私に中々会いに来てくれなかったからだ。

「あなたは賢いだから、そうやっていつも笑ってくれていたのよね……私達はあなたに甘えていた。これからはもっと、あなたとの時間を増やそうと思うわ。いや、そうではないわね。あなたとの時間を増やしたいの」
「えっと……」
「……ごめんなさい。難しい話だったわよね? えっと、つまりこれから私はあなたと一緒にいたいとそう思っているということよ」

 お母様の言葉が、とても嬉しかった。
 一緒にいてくれる。それは私がずっと望んでいることだった。
 ただ、私はそれだけでは満足できていなかった。こんなに嬉しいのに、私はそれ以上を望んでしまう。

「……お父様も、一緒にいてくれますか?」
「……え?」
「私、お父様とお母様と一緒にいたいんです。それは……それは、駄目ですか?」
「ファルミル……」

 私の望みに、お母様は返答をくれなかった。
 悲しそうな顔をしながら、私から目をそらす。
 やはり、二人の間にある溝は広いのかもしれない。その顔を見ていると、そう思ってしまう。
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