4 / 38
4.前世の記憶
しおりを挟む
お父様もお母様もいない部屋で、私は一人で考えていた。
頭を打ってから、私の中にはおかしな記憶がある。それは間違いなく記憶だ。私は、それらを一度体験している。
ただ、私はこのアルナント公爵家の長女として生まれて、今まで育ってきた。それもまた間違いない。
「これは、前世の記憶なの?」
私はこれを前世の記憶であると理解した。その理解をもたらしてくれたのが、前世の記憶ではあるのだが。
かつて私は、こことは違う世界で暮らしていたようだ。そこで一度亡くなった私は、この世界にファルミルとして生まれた。そういうことなのだろう。
正直、あまり理解することはできていない。混乱していて、頭の中が整理できていないような気がする。
でも、その中でも考えなければならないことがあった。それは、お父様とお母様のことである。
「……確かに、私はお父様とお母様を知っている。乙女ゲームに、二人は出てきていた。攻略対象と悪役令嬢として」
私は、前世の記憶を思い出す。かつてプレイした乙女ゲームには、確かにお父様とお母様が出てきていたのだ。
つまりこの世界は、あのゲームとよく似た世界ということなのだろう。確証が持てるという訳ではないが、お父様とお母様がいるのだから、その可能性は高いはずだ。
「ゲームの中で、お父様とお母様は婚約していた。主人公とお父様が結ばれる場合以外は、そのまま結婚するはず……」
私は、ゲームの内容を振り返っていた。
乙女ゲームには主人公がいて、お父様が攻略する対象だった。そして、お母様は敵役だったのだ。二人の恋愛の邪魔をする存在だったのである。
それを考えると、少々複雑な気分だった。大好きなお母様が敵役なんて不服である。
「でも、お母様が敵役なのは、お父様の時だけだったよね……」
お父様のルート以外では、お母様は敵役にならない。というか、あまり関わってこない。他のルートでお母様は出てこないのである。
攻略対象は合計で四人いたはずだ。つまり、この世界はお父様以外の三人の誰かが選ばれた世界ということなのだろう。
「そっか……お父様は選ばれなかったんだ」
私はゲームの攻略対象の中では、お父様が一番好きだった。
そんな彼が主人公と結ばれる。それが私の一番好きなルートだった。
ただ、もしもそのルートだった場合、私は生まれていなかった。そう考えると、なんだかまた複雑な気持ちになってしまう。
「でも私は、お父様もお母様も大好きだもん。二人が結ばれてくれて、この家に生まれられて、本当に幸せ。それでいいんだよね」
私は、胸の中にあったもやもやを振り払った。
前世で好きだったとか、そんなことは関係ない。大切なのは、今である。
私は、お父様とお母様の子供として生まれられて幸せだ。だから、それでいい。それ以外のことなんて、些細なことである。
「でも、お父様とお母様はそうじゃないんだよね、きっと……」
そこで、私はもう一つ理解した。それは、お父様とお母様の関係性のことである。
二人は、婚約者同士だった。でも、好き合っていた訳ではない。政略結婚だったのだ。
お父様とお母様が仲良くしている所を私は見たことがない。二人とも私のことは愛してくれているが、夫婦としては良好とは言い難い関係性なのだ。
「仕方ないのかもしれないけど……嫌だな」
お父様とお母様に仲良くして欲しいというのは、きっと私のわがままなのだろう。愛があって夫婦になった訳ではない二人は仲良くする理由なんてないのかもしれない。
それでも、私は仲良くして欲しいと思ってしまう。だって、私は二人の娘だから。
「夫婦じゃなくてもいいから……」
私は思った。別に夫と妻という関係性ではなくてもいいと。
もちろんそうなってくれるのが理想だが、ただ二人が一緒に笑ってくれるだけでも、私は嬉しいと思う。
だから、そのための努力をしてもいいのではないだろうか。幸いにも、私はお父様とお母様に関することを思い出した。その知識をうまく利用すれば、二人に仲良くなってもらえるかもしれない。
きっと大丈夫だ。だって二人はとても優しく温かい人同士なのだから、一緒に笑い合えない訳がない。
頭を打ってから、私の中にはおかしな記憶がある。それは間違いなく記憶だ。私は、それらを一度体験している。
ただ、私はこのアルナント公爵家の長女として生まれて、今まで育ってきた。それもまた間違いない。
「これは、前世の記憶なの?」
私はこれを前世の記憶であると理解した。その理解をもたらしてくれたのが、前世の記憶ではあるのだが。
かつて私は、こことは違う世界で暮らしていたようだ。そこで一度亡くなった私は、この世界にファルミルとして生まれた。そういうことなのだろう。
正直、あまり理解することはできていない。混乱していて、頭の中が整理できていないような気がする。
でも、その中でも考えなければならないことがあった。それは、お父様とお母様のことである。
「……確かに、私はお父様とお母様を知っている。乙女ゲームに、二人は出てきていた。攻略対象と悪役令嬢として」
私は、前世の記憶を思い出す。かつてプレイした乙女ゲームには、確かにお父様とお母様が出てきていたのだ。
つまりこの世界は、あのゲームとよく似た世界ということなのだろう。確証が持てるという訳ではないが、お父様とお母様がいるのだから、その可能性は高いはずだ。
「ゲームの中で、お父様とお母様は婚約していた。主人公とお父様が結ばれる場合以外は、そのまま結婚するはず……」
私は、ゲームの内容を振り返っていた。
乙女ゲームには主人公がいて、お父様が攻略する対象だった。そして、お母様は敵役だったのだ。二人の恋愛の邪魔をする存在だったのである。
それを考えると、少々複雑な気分だった。大好きなお母様が敵役なんて不服である。
「でも、お母様が敵役なのは、お父様の時だけだったよね……」
お父様のルート以外では、お母様は敵役にならない。というか、あまり関わってこない。他のルートでお母様は出てこないのである。
攻略対象は合計で四人いたはずだ。つまり、この世界はお父様以外の三人の誰かが選ばれた世界ということなのだろう。
「そっか……お父様は選ばれなかったんだ」
私はゲームの攻略対象の中では、お父様が一番好きだった。
そんな彼が主人公と結ばれる。それが私の一番好きなルートだった。
ただ、もしもそのルートだった場合、私は生まれていなかった。そう考えると、なんだかまた複雑な気持ちになってしまう。
「でも私は、お父様もお母様も大好きだもん。二人が結ばれてくれて、この家に生まれられて、本当に幸せ。それでいいんだよね」
私は、胸の中にあったもやもやを振り払った。
前世で好きだったとか、そんなことは関係ない。大切なのは、今である。
私は、お父様とお母様の子供として生まれられて幸せだ。だから、それでいい。それ以外のことなんて、些細なことである。
「でも、お父様とお母様はそうじゃないんだよね、きっと……」
そこで、私はもう一つ理解した。それは、お父様とお母様の関係性のことである。
二人は、婚約者同士だった。でも、好き合っていた訳ではない。政略結婚だったのだ。
お父様とお母様が仲良くしている所を私は見たことがない。二人とも私のことは愛してくれているが、夫婦としては良好とは言い難い関係性なのだ。
「仕方ないのかもしれないけど……嫌だな」
お父様とお母様に仲良くして欲しいというのは、きっと私のわがままなのだろう。愛があって夫婦になった訳ではない二人は仲良くする理由なんてないのかもしれない。
それでも、私は仲良くして欲しいと思ってしまう。だって、私は二人の娘だから。
「夫婦じゃなくてもいいから……」
私は思った。別に夫と妻という関係性ではなくてもいいと。
もちろんそうなってくれるのが理想だが、ただ二人が一緒に笑ってくれるだけでも、私は嬉しいと思う。
だから、そのための努力をしてもいいのではないだろうか。幸いにも、私はお父様とお母様に関することを思い出した。その知識をうまく利用すれば、二人に仲良くなってもらえるかもしれない。
きっと大丈夫だ。だって二人はとても優しく温かい人同士なのだから、一緒に笑い合えない訳がない。
35
お気に入りに追加
1,144
あなたにおすすめの小説

婚約破棄をいたしましょう。
見丘ユタ
恋愛
悪役令嬢である侯爵令嬢、コーデリアに転生したと気づいた主人公は、卒業パーティーの婚約破棄を回避するために奔走する。
しかし無慈悲にも卒業パーティーの最中、婚約者の王太子、テリーに呼び出されてしまうのだった。

悪役令嬢に転生したら手遅れだったけど悪くない
おこめ
恋愛
アイリーン・バルケスは断罪の場で記憶を取り戻した。
どうせならもっと早く思い出せたら良かったのに!
あれ、でも意外と悪くないかも!
断罪され婚約破棄された令嬢のその後の日常。
※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。

悪役令嬢の居場所。
葉叶
恋愛
私だけの居場所。
他の誰かの代わりとかじゃなく
私だけの場所
私はそんな居場所が欲しい。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
※誤字脱字等あれば遠慮なく言ってください。
※感想はしっかりニヤニヤしながら読ませて頂いています。
※こんな話が見たいよ!等のリクエストも歓迎してます。
※完結しました!番外編執筆中です。

転生悪役令嬢は冒険者になればいいと気が付いた
よーこ
恋愛
物心ついた頃から前世の記憶持ちの悪役令嬢ベルティーア。
国の第一王子との婚約式の時、ここが乙女ゲームの世界だと気が付いた。
自分はメイン攻略対象にくっつく悪役令嬢キャラだった。
はい、詰んだ。
将来は貴族籍を剥奪されて国外追放決定です。
よし、だったら魔法があるこのファンタジーな世界を満喫しよう。
国外に追放されたら冒険者になって生きるぞヒャッホー!

転生侍女は完全無欠のばあやを目指す
ロゼーナ
恋愛
十歳のターニャは、前の「私」の記憶を思い出した。そして自分が乙女ゲーム『月と太陽のリリー』に登場する、ヒロインでも悪役令嬢でもなく、サポートキャラであることに気付く。侍女として生涯仕えることになるヒロインにも、ゲームでは悪役令嬢となってしまう少女にも、この世界では不幸になってほしくない。ゲームには存在しなかった大団円エンドを目指しつつ、自分の夢である「完全無欠のばあやになること」だって、絶対に叶えてみせる!
*三十話前後で完結予定、最終話まで毎日二話ずつ更新します。
(本作は『小説家になろう』『カクヨム』にも投稿しています)

困りました。縦ロールにさよならしたら、逆ハーになりそうです。《改訂版》
新 星緒
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢アニエス(悪質ストーカー)に転生したと気づいたけれど、心配ないよね。だってフラグ折りまくってハピエンが定番だもの。
趣味の悪い縦ロールはやめて性格改善して、ストーカーしなければ楽勝楽勝!
……って、あれ?
楽勝ではあるけれど、なんだか思っていたのとは違うような。
想定外の逆ハーレムを解消するため、イケメンモブの大公令息リュシアンと協力関係を結んでみた。だけどリュシアンは、「惚れた」と言ったり「からかっただけ」と言ったり、意地悪ばかり。嫌なヤツ!
でも実はリュシアンは訳ありらしく……

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。

【完結】私ですか?ただの令嬢です。
凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!?
バッドエンドだらけの悪役令嬢。
しかし、
「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」
そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。
運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語!
※完結済です。
※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)
※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。
《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる