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1.混同する記憶
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「ファルミル、廊下を走ってはいけないと言っているでしょう?」
「す、すみません。お母様……」
「あなたには貴族としての自覚が足りないわ。自分が高貴なる存在であるということを理解しなさい。気品に溢れた立ち振る舞いが、私達には必要なのよ」
いつものように遊んでいた私は、お母様に見つかって大目玉を食らっていた。
お母様は、いつもこのようなことを言ってくる。でも、正直私にはよくわからない。貴族としての自覚とは一体何なのだろう。
お母様が言っていることだから、それはきっと正しいこと。そう思いながらも、私は言い付けを守っていない。だって、本当はわかっていないから。
「……あまり心配をかけてないで頂戴」
「はい、お母様……」
お母様は、多分怒っているんだと思う。私が何かすると、いつもそうだ。苦いものでも食べたみたいな顔をする。
私は悪い子なんだと思う。だって、お母様にいつも怒られてばかりだから。
でも、私はそれでも悪いことをしてしまう。お母様にこんな顔をさせたくないって、思っているはずなのに。
「わかったならいいわ。それなら、部屋に戻っていなさい」
「はい……っ」
お母様に言われて、私は歩き始めた。
私の部屋は、二階にある。今日はもうそこに籠っているしかない。きっとお母様は、外に出ることを許してくれないだろう。
「あれ?」
「ファルミル!」
次の瞬間、私は自分がスカートの裾を踏んでしまったことに気付いた。
私は階段の手すりを持とうと思った。でも、届かない。このまま転げ落ちてしまう。
怖い。心がその感情に包まれた。でも、同時に少しだけ嬉しかった。だって、お母様がこんなにも必死に私の名前を呼んでくれたのは初めてだったから。
◇◇◇
誰かが泣いているような声が聞こえてくる。
前にもこんなことがあったような気がする。いつだっただろうか。とても昔に同じようなことがあった。
でもそれは、私じゃない。私だけど私じゃない。ファルミルじゃない。
「うんっ……」
「……ファルミル?」
「……起きたのか?」
私の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
これは、お母様の声だ。そして逆側から聞こえてくる声はお父様だ。二人が揃っているなんて珍しい。
ただ、気になることがある。どうして、二人はこんなにも苦しそうな声をしているのだろうか。それがわからない。
「あ、あれ……?」
「ファルミル、私のことがわかる?」
「え、ええ、お母様ですよね?」
お母様は泣いていた。私を見ながら安心したような顔をしながらも、大粒の涙を流している。こんな風に泣いているお母様を見るのは初めてだ。
「ファルミル、何があったかは覚えているか?」
「お父様?」
「あ、いや、覚えていないならいい。とにかく今は動くな」
「は、はい……」
お父様も、心配そうな顔をして私を見ている。それもなんだか珍しい。お父様は、そうそう表情を変える人ではないからだ。
でもわからない。どうして、二人はこんな顔をしているのだろう。
「痛っ……」
「ファルミル? 大丈夫? ファルミル!」
「医者はまだ来ないのか!」
色々と考えていると、頭に鋭い痛みが走った。
その瞬間思い出す。私の身に何が起こったのかということを。
私は、階段から転げ落ちたのだ。それで恐らく、頭を打ってしまったのだろう。
「……」
お母様の悲痛な声とお父様の怒号が飛ぶ。それを見ながら、私は違和感を覚えた。
この二人の顔を私はどこかで見たことがある。いや、両親なのだから顔を見たことがあるのは当然だ。でも、それならこの感覚はなんなのだろう。
「ファルミル、安心して。すぐにお医者様が来てくれるから」
「はい、お母様……」
私を安心させるために顔を近づけたお母様を見ながら、私は理解する。
彼女は、私がかつてプレイした乙女ゲームの悪役令嬢だ。間違いない。多少の違いはあるが、彼女はアルティリアである。
そして、同時に理解した。私のお父様は、ファルクス様だ。アルナント公爵家の長男であり、攻略対象の一人で、私の推しであった彼が私のお父様なのである。
でも、この記憶は何なのだろう。なんだか訳がわからない。頭を打って、私はおかしくなってしまったのだろうか。
「す、すみません。お母様……」
「あなたには貴族としての自覚が足りないわ。自分が高貴なる存在であるということを理解しなさい。気品に溢れた立ち振る舞いが、私達には必要なのよ」
いつものように遊んでいた私は、お母様に見つかって大目玉を食らっていた。
お母様は、いつもこのようなことを言ってくる。でも、正直私にはよくわからない。貴族としての自覚とは一体何なのだろう。
お母様が言っていることだから、それはきっと正しいこと。そう思いながらも、私は言い付けを守っていない。だって、本当はわかっていないから。
「……あまり心配をかけてないで頂戴」
「はい、お母様……」
お母様は、多分怒っているんだと思う。私が何かすると、いつもそうだ。苦いものでも食べたみたいな顔をする。
私は悪い子なんだと思う。だって、お母様にいつも怒られてばかりだから。
でも、私はそれでも悪いことをしてしまう。お母様にこんな顔をさせたくないって、思っているはずなのに。
「わかったならいいわ。それなら、部屋に戻っていなさい」
「はい……っ」
お母様に言われて、私は歩き始めた。
私の部屋は、二階にある。今日はもうそこに籠っているしかない。きっとお母様は、外に出ることを許してくれないだろう。
「あれ?」
「ファルミル!」
次の瞬間、私は自分がスカートの裾を踏んでしまったことに気付いた。
私は階段の手すりを持とうと思った。でも、届かない。このまま転げ落ちてしまう。
怖い。心がその感情に包まれた。でも、同時に少しだけ嬉しかった。だって、お母様がこんなにも必死に私の名前を呼んでくれたのは初めてだったから。
◇◇◇
誰かが泣いているような声が聞こえてくる。
前にもこんなことがあったような気がする。いつだっただろうか。とても昔に同じようなことがあった。
でもそれは、私じゃない。私だけど私じゃない。ファルミルじゃない。
「うんっ……」
「……ファルミル?」
「……起きたのか?」
私の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
これは、お母様の声だ。そして逆側から聞こえてくる声はお父様だ。二人が揃っているなんて珍しい。
ただ、気になることがある。どうして、二人はこんなにも苦しそうな声をしているのだろうか。それがわからない。
「あ、あれ……?」
「ファルミル、私のことがわかる?」
「え、ええ、お母様ですよね?」
お母様は泣いていた。私を見ながら安心したような顔をしながらも、大粒の涙を流している。こんな風に泣いているお母様を見るのは初めてだ。
「ファルミル、何があったかは覚えているか?」
「お父様?」
「あ、いや、覚えていないならいい。とにかく今は動くな」
「は、はい……」
お父様も、心配そうな顔をして私を見ている。それもなんだか珍しい。お父様は、そうそう表情を変える人ではないからだ。
でもわからない。どうして、二人はこんな顔をしているのだろう。
「痛っ……」
「ファルミル? 大丈夫? ファルミル!」
「医者はまだ来ないのか!」
色々と考えていると、頭に鋭い痛みが走った。
その瞬間思い出す。私の身に何が起こったのかということを。
私は、階段から転げ落ちたのだ。それで恐らく、頭を打ってしまったのだろう。
「……」
お母様の悲痛な声とお父様の怒号が飛ぶ。それを見ながら、私は違和感を覚えた。
この二人の顔を私はどこかで見たことがある。いや、両親なのだから顔を見たことがあるのは当然だ。でも、それならこの感覚はなんなのだろう。
「ファルミル、安心して。すぐにお医者様が来てくれるから」
「はい、お母様……」
私を安心させるために顔を近づけたお母様を見ながら、私は理解する。
彼女は、私がかつてプレイした乙女ゲームの悪役令嬢だ。間違いない。多少の違いはあるが、彼女はアルティリアである。
そして、同時に理解した。私のお父様は、ファルクス様だ。アルナント公爵家の長男であり、攻略対象の一人で、私の推しであった彼が私のお父様なのである。
でも、この記憶は何なのだろう。なんだか訳がわからない。頭を打って、私はおかしくなってしまったのだろうか。
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