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第74話 村の少女
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私とロクス様は、ドルスに案内されて、一つの民家まで辿り着いていた。
その民家は、村から少しだけ離れた場所にある。人々から遠ざけるように建っているその民家は、まだ新しいように見える。恐らく、ここ数十年で新たに建てられたものなのだろう。
「ムルル、いるか?」
「あ、ドルス?」
ドルスが家の戸を叩くと、中から女の子の声が聞こえてきた。
その直後、ゆっくりと家の戸が開き、痩せた女の子が目に入って来る。
「あれ? その人達は……?」
「ああ、この人達は、この間お前と話していた調査員の上司にあたる人達だ」
「え? あの人の上司?」
ムルルという少女から、私はかなりの魔力を感じていた。
その魔力は、確かに聖女に相応しい程の魔力である。
少なくとも、今まで私が見てきた者の中では、随一の才能だ。この子なら、きっと私の後任になることができるだろう。
「私の名前は、セレンティナ。あなたが、ムルルでいいのかな?」
「え? あ、はい。ムルルです」
「私は、あなたに聖女の才能があるかもしれないと思って、ここまで来たの。あなたの魔力を感じて、私は確信した。あなたなら、きっと聖女になれると思う」
「え? 私が聖女に?」
私の言葉に、ムルルは驚いていた。
それは当然である。いきなり聖女になれると聞かされて、驚かない訳がない。
だが、私にとって、その話は前置きだった。彼女を聖女にするかどうかより、今はもっと優先するべきことがあるからだ。
「そのために、あなたから少し事情を聞きかせてもらっていいかな? あなたのことは、少しだけ調べさせてもらったけど、少々特別な事情があるみたいだから……」
「あ……えっと」
私が特別な事情と口にしたからか、ムルルの表情は曇ってしまった。
恐らく、その事情は口に出しづらいものなのだろう。しかし、彼女を聖女にするためにも、その事情は聞かなければならない。苦しいかもしれないが、ムルルに話してもらうしかないだろう。
「セ、セレンティナ様、ムルルは別に何も悪いことをしたとか、そういう訳じゃないんです」
「大丈夫、それはわかっているから、安心して」
私に対して、ドルスは慌てたように色々と言ってきた。
どうやら、私がムルルを疑っているように捉えてしまったようだ。
だが、私はそんなことは思っていない。ムルルを疑っているのではなく、村の人々を疑っているのだ。
「と、とりあえず、中に入ってもらえますか? 誰かにここを見られたら、またややこしいことになりそうなので……」
「あ、うん。お邪魔させてもらうね」
そこで、ムルルが中に入るように促してきた。
確かに、いつまでもここで話しているのは良くないだろう。あの村人達の様子からして、何かしてくる可能性は充分ある。
こうして、私達はムルルの家の中に入るのだった。
その民家は、村から少しだけ離れた場所にある。人々から遠ざけるように建っているその民家は、まだ新しいように見える。恐らく、ここ数十年で新たに建てられたものなのだろう。
「ムルル、いるか?」
「あ、ドルス?」
ドルスが家の戸を叩くと、中から女の子の声が聞こえてきた。
その直後、ゆっくりと家の戸が開き、痩せた女の子が目に入って来る。
「あれ? その人達は……?」
「ああ、この人達は、この間お前と話していた調査員の上司にあたる人達だ」
「え? あの人の上司?」
ムルルという少女から、私はかなりの魔力を感じていた。
その魔力は、確かに聖女に相応しい程の魔力である。
少なくとも、今まで私が見てきた者の中では、随一の才能だ。この子なら、きっと私の後任になることができるだろう。
「私の名前は、セレンティナ。あなたが、ムルルでいいのかな?」
「え? あ、はい。ムルルです」
「私は、あなたに聖女の才能があるかもしれないと思って、ここまで来たの。あなたの魔力を感じて、私は確信した。あなたなら、きっと聖女になれると思う」
「え? 私が聖女に?」
私の言葉に、ムルルは驚いていた。
それは当然である。いきなり聖女になれると聞かされて、驚かない訳がない。
だが、私にとって、その話は前置きだった。彼女を聖女にするかどうかより、今はもっと優先するべきことがあるからだ。
「そのために、あなたから少し事情を聞きかせてもらっていいかな? あなたのことは、少しだけ調べさせてもらったけど、少々特別な事情があるみたいだから……」
「あ……えっと」
私が特別な事情と口にしたからか、ムルルの表情は曇ってしまった。
恐らく、その事情は口に出しづらいものなのだろう。しかし、彼女を聖女にするためにも、その事情は聞かなければならない。苦しいかもしれないが、ムルルに話してもらうしかないだろう。
「セ、セレンティナ様、ムルルは別に何も悪いことをしたとか、そういう訳じゃないんです」
「大丈夫、それはわかっているから、安心して」
私に対して、ドルスは慌てたように色々と言ってきた。
どうやら、私がムルルを疑っているように捉えてしまったようだ。
だが、私はそんなことは思っていない。ムルルを疑っているのではなく、村の人々を疑っているのだ。
「と、とりあえず、中に入ってもらえますか? 誰かにここを見られたら、またややこしいことになりそうなので……」
「あ、うん。お邪魔させてもらうね」
そこで、ムルルが中に入るように促してきた。
確かに、いつまでもここで話しているのは良くないだろう。あの村人達の様子からして、何かしてくる可能性は充分ある。
こうして、私達はムルルの家の中に入るのだった。
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