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身勝手な主張をするクードム様に、ケルド様は怒っていた。その鋭い視線からは、威圧感のようなものが伝わってくる。
こんな彼は、今まで見たことがない。優しい彼でも、怒ると結構怖いようだ。
「け、ケルド……お前、誰に向かって……」
「彼女を貶めていたあなたが、今更彼女を再婚約できるなどと思うな」
「なっ……」
「あなたは、最低な人間だ。それを認識しろ」
「く、くそっ……」
ケルド様の言葉に、クードム様は逃げ出した。
絶対に勝てないと本能が悟ったのだろう。口論だとか議論だとか、そういうものは必要なかった。威圧だけで、クードム様は既に敗北してしまったのである。
「……申し訳ありません。僕の兄が、あなたに迷惑をかけてしまって」
「ケルド様が、謝ることではありません。あれは、彼の問題です」
「いえ、兄のような人間が身内にいることを恥ずかしく思います。彼を作り出し、好きなようにさせていたことを深く謝罪します……本当に、申し訳ありませんでした」
「そんなに謝らないでください。ケルド様は、クードム様ではありません。家族のことだからといって、あなたが謝るのはおかしいですよ」
ケルド様は、私に謝ってきた。
でも、私は彼からの謝罪を必要としていない。あんな人のために、彼が頭を下げるなんて、絶対に間違っているのだ。
「……ケルド様、一つお願いしたいことがあるんですけど、聞いてもらえますか?」
「お願い? なんですか?」
そこで、私はあることを思いついた。
クードム様のような人は、他にもいるかもしれない。私を婚約することで、甘い汁が吸える。そういう人間は、少なくないだろう。
そんな人達を避ける方法はいくつかある。だが、一番早くて、私が一番納得できる方法は、ただ一つだ。
「私と……婚約してもらえませんか?」
「え?」
「婚約者がいれば、クードム様のような人も近寄ってきません。でも、それは表面的な理由でしかないんです。本当の所、私はあなたのことが……好きなんです」
私の言葉に、ケルド様は目を丸めていた。突然の告白だ。その反応も仕方ないだろう。
だが、これが私の今の素直な気持ちである。私のために、私のような人間のために動いてくれる彼に、私は惹かれているのだ。
「……そうでしたか。そう思っていただいたことを、僕は光栄に思います。あなたのような素晴らしい人に思われていたなんて、嬉しいです」
「えっと……」
「僕も、素直な気持ちを返します。あなたのような女性に、僕は傍にいてもらいたいと思っていました。驚くかもしれませんが、はっきりとそう思ったのは先程からですけど……」
「え?」
ケルド様の言葉は、とても嬉しいものだった。
ただ、同時に少し驚くべきものでもあった。先程から、そう思っていたという事実は、とても衝撃的なものである。
「あなたは、優しく強い。力を得て、自分のような人達のためにその力を使いたいと思うあなたを、僕は素晴らしいと思いました。こんな人に傍にいて欲しい……つまり、僕もあなたのことが好きだということですね」
「ケルド様……」
ケルド様は、私を見て笑ってくれた。
彼は、本当にどこまで優しい人である。好きな人まで、他者を思いやれるかどうかで決めているのだから、それは間違いないだろう。
私がそういう人間なのかどうかは、正直よくわからない。でも、彼がそう思っているのだから、それは受け入れるべきだろう。
「……さて、話はまとまったということでいいですよね? そろそろ、時間ですから、まとまっていなくても動かなければなりませんけど」
「あ、そういえば、そうでしたね。国王様は待たせられませんから、早く行かないと行けません」
「僕も一緒に行きますよ。父上に、色々と言わなければならないことができましたからね」
「助かります。私一人だと、流石に緊張しそうですから……」
色々と話している内に、時間が来ていた。
私は、国王様に聖なる力を見せるためにここに来たのだ。その目的を果たさなければならない。
ただ、当初の目的以上に大切なこともできた。国王様とは、色々と話さなければならないだろう。
「さて、これから、色々とあると思いますが、頑張っていきましょう」
「ええ……」
私は、ケルド様とともに歩いていく。
こうして、私は彼とともに王国を変えていく決意を固めるのだった。
こんな彼は、今まで見たことがない。優しい彼でも、怒ると結構怖いようだ。
「け、ケルド……お前、誰に向かって……」
「彼女を貶めていたあなたが、今更彼女を再婚約できるなどと思うな」
「なっ……」
「あなたは、最低な人間だ。それを認識しろ」
「く、くそっ……」
ケルド様の言葉に、クードム様は逃げ出した。
絶対に勝てないと本能が悟ったのだろう。口論だとか議論だとか、そういうものは必要なかった。威圧だけで、クードム様は既に敗北してしまったのである。
「……申し訳ありません。僕の兄が、あなたに迷惑をかけてしまって」
「ケルド様が、謝ることではありません。あれは、彼の問題です」
「いえ、兄のような人間が身内にいることを恥ずかしく思います。彼を作り出し、好きなようにさせていたことを深く謝罪します……本当に、申し訳ありませんでした」
「そんなに謝らないでください。ケルド様は、クードム様ではありません。家族のことだからといって、あなたが謝るのはおかしいですよ」
ケルド様は、私に謝ってきた。
でも、私は彼からの謝罪を必要としていない。あんな人のために、彼が頭を下げるなんて、絶対に間違っているのだ。
「……ケルド様、一つお願いしたいことがあるんですけど、聞いてもらえますか?」
「お願い? なんですか?」
そこで、私はあることを思いついた。
クードム様のような人は、他にもいるかもしれない。私を婚約することで、甘い汁が吸える。そういう人間は、少なくないだろう。
そんな人達を避ける方法はいくつかある。だが、一番早くて、私が一番納得できる方法は、ただ一つだ。
「私と……婚約してもらえませんか?」
「え?」
「婚約者がいれば、クードム様のような人も近寄ってきません。でも、それは表面的な理由でしかないんです。本当の所、私はあなたのことが……好きなんです」
私の言葉に、ケルド様は目を丸めていた。突然の告白だ。その反応も仕方ないだろう。
だが、これが私の今の素直な気持ちである。私のために、私のような人間のために動いてくれる彼に、私は惹かれているのだ。
「……そうでしたか。そう思っていただいたことを、僕は光栄に思います。あなたのような素晴らしい人に思われていたなんて、嬉しいです」
「えっと……」
「僕も、素直な気持ちを返します。あなたのような女性に、僕は傍にいてもらいたいと思っていました。驚くかもしれませんが、はっきりとそう思ったのは先程からですけど……」
「え?」
ケルド様の言葉は、とても嬉しいものだった。
ただ、同時に少し驚くべきものでもあった。先程から、そう思っていたという事実は、とても衝撃的なものである。
「あなたは、優しく強い。力を得て、自分のような人達のためにその力を使いたいと思うあなたを、僕は素晴らしいと思いました。こんな人に傍にいて欲しい……つまり、僕もあなたのことが好きだということですね」
「ケルド様……」
ケルド様は、私を見て笑ってくれた。
彼は、本当にどこまで優しい人である。好きな人まで、他者を思いやれるかどうかで決めているのだから、それは間違いないだろう。
私がそういう人間なのかどうかは、正直よくわからない。でも、彼がそう思っているのだから、それは受け入れるべきだろう。
「……さて、話はまとまったということでいいですよね? そろそろ、時間ですから、まとまっていなくても動かなければなりませんけど」
「あ、そういえば、そうでしたね。国王様は待たせられませんから、早く行かないと行けません」
「僕も一緒に行きますよ。父上に、色々と言わなければならないことができましたからね」
「助かります。私一人だと、流石に緊張しそうですから……」
色々と話している内に、時間が来ていた。
私は、国王様に聖なる力を見せるためにここに来たのだ。その目的を果たさなければならない。
ただ、当初の目的以上に大切なこともできた。国王様とは、色々と話さなければならないだろう。
「さて、これから、色々とあると思いますが、頑張っていきましょう」
「ええ……」
私は、ケルド様とともに歩いていく。
こうして、私は彼とともに王国を変えていく決意を固めるのだった。
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