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 私は、セリーヌ様の言葉で目を覚ました。
 今まで、私は聖なる力が証明できなくてもいいと思っていた。だが、今は違う。私は、その力を証明して、地位を得る必要があるのだ。

「セリーヌ様、申し訳ありませんでした。私、何という考え方を……」
「わかればいいのですわ。あなたは、前に進みなさい。その力を証明して、この国を変えるのですわ」
「はい……」

 セリーヌ様の言葉に、私はゆっくりと頷いた。
 本当に、彼女はどこまでも私の憧れだ。彼女のような貴族になりたいと、何度思ったことだろうか。

「あなたに必要だったのは、絶対に成功させるという覚悟ですわ。でも、まだ足りませんわね。大義を抱いているあなたでも、治すのがその木の傷というのでは、完全に真剣にはなれないはずですわ」
「え?」

 そこで、セリーヌ様は木の傍に置いていたナイフを手に取った。
 その言葉から、彼女がどのような行動をとるかは予測できる。予測できたが、まさかそんなことはしないだろうという思考が、声を出すことを躊躇わせた。その一瞬の考えが、いけなかったのだ。

「ふっ!」
「なっ!」
「セリーヌ様!」

 セリーヌ様は、自らの肩にナイフを突き刺した。
 その服が、その肌が、その肉が貫かれて、彼女の肩から嫌なものが見えてくる。

「セリーヌ! 何をっ!」
「今から、このナイフを引き抜きますわ。当然、大量の血が流れてくるでしょう。最悪の場合、私は死にますわ」
「誰か! 医者を呼んでくれ! 誰か!」
「死ななくても、傷は残りますわね。もしかしたら、後遺症もあるかもしれません。でも、あなたが治してくれたら、話は別ですわ」
「私が……」

 セリーヌ様は、少し苦しそうにしながら、私に話しかけてきた。
 私に聖なる力が宿っているのかどうか、それは定かではないことだ。
 それなのに、彼女は私を信じている。しかも、それはその力があることだけではない。私がその力を使えるということも信じてくれているのだ。

「行きますわよ? 三……」

 そんな彼女に、私は報いなければならない。
 そう思った瞬間、体が自然と構えを取った。知識ではない。これは、本能だ。この力の使い方を、私の体は知っているのだ。

「二……」

 両手を前に出して、その手の平を傷口に向ける。
 私の心に、最早迷いはない。絶対に治す。その考えしか、今の私の中にはないのだ。

「一……!」

 セリーヌ様は、ゆっくりとそのナイフを引き抜いた。
 当然のことながら、その体から血が流れていく。だが、私はそれを許さない。その血は流させない。私の力で、その傷口は封じ込めるのだ。

「はああああああああっ!」
「これは……」

 叫びをあげながら、私はその力を行使した。
 セリーヌ様の傷口が塞がっていくのがわかる。これが、聖なる力であるということも同時に理解した。
 私は、掴んだのだ。私の体に宿っていた聖なる力を。
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