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40.最後の頼りも

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「……ランドラ様、残念ながら、私はあなたを助けるつもりはありません」
「……何?」
「あなたは全ての選択を間違えたのです。最早、私はあなたを信用できません。どうやら、数々の行動を反省したという訳でもないようですし……」

 私は、ランドラ様にゆっくりとそう告げた。
 言葉は、思っていた以上にすらすらと出てくる。私の中にあった彼への恨みが、出てきてしまっているのかもしれない。

「奥様と一緒に田舎でやり直す。そういう選択をどうして取らなかったのでしょうか……地位や名誉も関係なく、愛する人との暮らしを選ぶ。そういう選択ができたなら、私もあなたの愛に一定の敬意を示せたのかもしれないのに」
「ぼ、僕に田舎で暮らせというのか?」
「もう言うつもりはありません。あなたはもうルーフィアさんの元に行くべきではない。彼女に迷惑をかけるだけです」
「な、何……」

 私の言葉に、ランドラ様は表情を歪めた。
 悲しんでいるような怒っているような微妙なその表情は、彼が現在置かれている状況の悲惨さを表しているような気がする。

「た、確かに君にはかつてひどいことをしたかもしれない。だが、かつての友人を助ける気持ちくらい、持っていてもいいんじゃないのか?」
「……あなたを助けることで、私に何の益があるのでしょうか?」
「それは……僕が成り上った時に返そう」
「話になりませんね。今更、そんなことができると思っているのですか?」

 ランドラ様は、徹底的な破滅思考をしていた。
 お金を借りた後、成り上って返す。そのような考えで良い訳がない。

「……これ以上、あなたの顔を見たくはありません。どうか、お帰りください」
「ぬぐっ……」
「お帰りくださいと言ったのが聞こえませんでしたか?」
「ぼ、僕は……」

 ランドラ様の表情が、絶望の色に変わった。
 もしかしたら、私が最後の頼りだったのかもしれない。それが打ち砕かれて、最早何も言うことができないのだろう。
 その姿を見ると、再び少し同情してしまう。とはいえ、考えを変えるつもりはないが。

「逃げなければならない……国外なら、あいつらだって来られないはずだ。そうだ……逃げるんだ。僕は逃げるんだ!」
「ランドラ様……」

 最後に混乱したような叫びをあげながら、ランドラ様は部屋から出て行った。
 どうやら、ランドラ様は国外に逃げるつもりであるらしい。確かに、そこまで行けばそういった者達も手が出しにくいかもしれない。
 ただ、今の彼に国外まで逃げられる当てがあるのだろうか。それは、少々疑問である。
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