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38.訪問者は

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 私は、オンラルト侯爵家で落ち着いた生活を送っていた。
 ランドラ様のことについて考える必要はあったが、基本的には家でゆっくりとしている。ここ最近は色々と忙しかったので、久し振りの休息だ。
 きっと、これからも色々と忙しくなるだろう。そのため、休息は大切である。

「セリティアお嬢様、いらっしゃいますか?」
「あ、はい。なんですか?」

 そんな私の耳に、メイドさんの焦ったような声が聞こえてきた。
 その声の時点で、嫌な予感がした。何か問題が起きなければ、そのような声は聞こえてこないはずだからだ。

「……ランドラ様が訪ねて来ました」
「ランドラ様が……」

 このタイミングで起こる問題、それがランドラ様関連であることは予想できていた。
 私はゆっくりと立ち上がり、身支度を始める。ランドラ様がどのような意図でここに来たのかはわからない。だが、とにかく対応する必要はあるだろう。

「……訪ねてきたのは、ランドラ様だけなのですか?」
「ええ、お一人でした」
「そうですか……少し待っていてください」
「はい……」

 私はてっきり、妻となったルーフィアも一緒に来たのだと思っていた。ランドラ様は熱烈に彼女を愛していたため、行動をともにしていると予想していたのだ。
 しかし、そういう訳ではないようである。それなら、現在ルーフィアはどこにいるのだろうか。

「彼の様子は、どうでしたか?」
「そうですね……とても貴族だった方とは思えない姿でした」
「色々と苦労はしているのでしょうね……まあ、当然のことではあるとは思いますが。さて、それでは案内をよろしくお願いします」
「はい」

 準備を完了した私の言葉に、メイドさんはゆっくりと頷いてくれた。
 予想外の訪問ではあったが、これは私にとってはありがたい訪問である。
 私は、アルガール侯爵から預かったものをどうするかを決めなければならなかった。本人と話せるなら、その判断もしやすい。
 とはいえ、私の元を訪ねてくるという時点で、少々彼の心証は悪くなってしまう。あのような婚約破棄をした私に、何を思って会いに来たのだろうか。

「こちらで、待っていただいています」
「そうですか……」

 案内された客室の前で、私は呼吸を整える。
 彼と会うのは、随分と久し振りだ。色々とあった結果、彼はどのような人間になっているのだろうか。
 深く反省して、やり直そうとしているならいい。それなら、アルガール侯爵から預かったものを彼に渡すことも考えられる。
 だが、もしもまだ妄言を言い続けるようなら、私は彼を切り捨てるだろう。これがランドラ様の運命を決める話し合いだ。
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