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16.再開する縁談

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 アルガール侯爵の葬儀からしばらく経ってから、ラーゼル公爵家との縁談の話が再開されることになった。
 ラゼール公爵家は、本当に葬儀が終わるまでこの話を差し止めていた。そこには、義理堅さのようなものが伺える。
 という訳で、再びラーゼル公爵家を訪問した私は、バルギード様に迎え入れられて、客室まで来ていた。

「さて、私の考えは以前と変わっていません。あなたを妻に迎えたいと思っています」
「そうですか……」

 バルギード様は、私に対してそう言ってくれた。
 彼の意思が変わっていないのは、私にとってありがたいことである。私の結論も、既に固まっているからだ。

「バルギード様、私もあなたと婚約を結びたいと考えています。あなたの人柄に、私は好感を抱いています。信用できる人だと思っています」
「そうですか……そう思えてもらえていることは、嬉しく思います。しかしながら、本当にいいのですか? もしかしたら、私はまだ底を見せていないかもしれませんよ」
「おや……」

 私の言葉に対して、バルギード様は笑みを浮かべながらそのようなことを言ってきた。
 もしかして、また私を試しているのだろうか。やはり、彼は一筋縄ではいかない人物であるらしい。
 それなら、私は考えなければならないだろう。どう答えるのがいいのかを。

「バルギード様は、人間の底というものをどのように解釈しているのでしょうか?」
「ふむ?」
「まずは、そこを伺っておきたいのです。そうしなければ、認識に齟齬が出るでしょう?」
「……底というのは、本性と言い換えてもいいでしょう。あなたは、私の本性を見通せているのですか?」
「本性ですか、それなら私はこう返しましょう。バルギード様は、私の本性を完全に理解できているのですか?」
「む……」

 私が返した質問に、バルギード様はゆっくりと手を上げた。
 それは、降参の意思を表示しているということだろう。だが、その顔は笑っている。私のこの返答が、満足いくものだったということだろうか。

「完敗です。あなたには、敵いそうにありませんね」
「認めてもらいましたか?」
「いえいえ、また試すような真似をして申し訳ありませんでした。いや、あなたとの会話は楽しくて、ついつい口が回ってしまう」
「そうなんですか?」
「ええ、あなたにとっては迷惑かもしれませんが……」
「いえ、私も楽しかったですよ」

 バルギード様の言葉に、私は笑顔を浮かべる。こういう会話が、私は案外嫌いではないらしい。今のやり取りも、楽しかったと思える。
 気が合うということは、こういうことなのかもしれない。恐らく、バルギード様は難儀な性格をしているのだろう。それが私の肌に合うというだけで。
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