「平民が聖女になれただけでも感謝しろ」とやりがい搾取されたのでやめることにします。

木山楽斗

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45.彼女達から隠れて

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「フェルーナお姉様、どちらですか?」
「出てきてください。フェルーナ様、私達あなたの役に立ちたいのです」

 村の騎士の詰め所で、私は丸くなっていた。
 この村には、現在十六人の貴族の令嬢がいる。半分は、魔法によって私が改心した。そこまではルナーラ様との計画通りである。
 しかしながら、もう半分も結果的に改心することになった。それは別に悪いことではない。ルナーラ様も望んでいた自浄作用が働いた結果だ。

 だが何故だろうか、私はこの村でこそこそと隠れなければならなくなっている。
 改心した魔法使い達の相手は、端的に言ってしまえば面倒臭いものだったのだ。改心してくれたのは良いのだが、とにかく今は彼女達と接したくはない。

「……行ったぞ?」
「行きましたか……はぁ」
「大変そうだな……まあ、無理もないことか」

 ラベルグ様は、穏やかな笑みを浮かべていた。
 私の苦労には同情してくれているものの、今の状況は彼にとっては悪いと思うようなものではないようだ。
 それはわからない訳でもない。私だって嬉しいのだ。彼女達が反省してくれたこと自体は。

「しかしながら、喜ばしいことではあるだろう。ロロアナ嬢の反応は、概ねリネアラ嬢と同じだ。それ所かひどいくらいだ。二人はよく似た令嬢であると聞いている。つまり、あなたの魔法というものは人格を無理やり歪めたという訳でもないということになるだろう。普通にあり得る変化を起こしたというだけだ」
「……それは好意的解釈のような気もしますけれど」
「この国もまだ捨てたものではないのかもしれないな。彼女達のように皆が反省すれば、やり直せる可能性もある」

 ラベルグ様は、ロロアナ嬢の変化に希望を見出しているようだ。
 とはいえ、今回は特殊なケースといえるだろう。端的に言って、ロロアナ嬢は命に危機に瀕していた。それで考えがひっくり返ったのだから、同じことはそう起こる訳ではないだろう。

「まあ、それは良いのですけれど、ロロアナ嬢はもうよくわかりません。私のことをお姉様なんて言って……」
「あなたを慕っているということだろう」
「でも彼女は、私よりも年上です」
「まあ、それでも良いだろう。俺だって、血縁関係上は一応兄であるが、ルナーラ様のことは尊敬している」

 ロロアナ嬢達の反省の形は、少々ずれているような気がする。
 それは貴族故のずれなのだろうか。よくわからない。
 ただ私としては、心から反省してこれから横暴なことをしなければそれで良いのだ。こんな風に慕われたいと思っていた訳では、決してない。

「あ、ここではありませんか?」
「ここはラベルグ様の詰め所ですよね? だったらやめておいた方が良いのではありませんか? だって、フェルーナお姉様とラベルグ様は……」
「なるほど……邪魔しては悪いでしょうかね?」

 そんなことを思っていると、二人の声が外から聞こえてきた。
 その言葉に反論したい気持ちと彼女達と関わりたくないという気持ちに、私は板挟みになるのだった。
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