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40.善意の刷り込み

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「フェルーナ、何をしているのか聞いても良いだろうか?」
「ええ、もちろんです、ラベルグ様」

 石像から出て来た私は、ラベルグ様の言葉にゆっくりと頷いた。
 ルナーラ様は、既に王城に戻っている。王位を継ぐためにも、彼女には色々とやらなければならないことがあるそうだ。
 そのため、石像に対する魔法は私がかけることになった。今はそれを終えた――というよりも、魔法をかけている最中だ。

「現在、私は石像の精神に魔法をかけています。具体的には、彼女達にある善意を引き出しているのです」
「善意を引き出す?」
「まあ、こちらに都合が良いように誘導しているということなのですが……彼女達には今、石像になった自分達が村の人達に運ばれている光景を反復してみせています」
「それは……」
「平民の優しさを刷り込んでいるのです。幸いにも同じような記憶を見せるだけで済むから、今回は部屋に魔法をかけています。開けないでくださいね」

 今回は、とても珍しい状況だといえる。精神に干渉する魔法は、個々にかけるのが基本だ。記憶というものはそれぞれ違うものだからだ。
 しかし今回の場合は、全員が同じような体験をしており、しかもそれが利用できた。魔法を範囲で絞ってかけることでなんとかなりそうなのだ。

「しかしながら、それで上手くいくものなのか?」
「ええ、理論上はそうですね。想像してみてください。これから彼女達は、自分達が助けられたという記憶を四六時中繰り返されるんですよ? そんなのをずっと見せられていたら、嫌でも自分を省みることになりますよ」
「……恐ろしい話だな。まあ、今回の場合は良い方に振ろうとしている訳ではあるが。いや善悪など個人の見解に過ぎないか」
「まあ、私としては更生させているというつもりでいます。その方が気楽ですからね」

 どんな人の中にも、良い心があるなんてことは幻想だろうか。
 少なくとも、私はそうは思っていない。こんな人達の中にも、何かしらの愛の類はあるだろうし。
 そういった心を引き出していると、今は思っている。それは私が気楽になるための方便に過ぎない。だけど、あまり重たく考えない方が良いだろう。今は割り切るべき時なのだから。

「更生という名の通り、この人達に善意が一つもなければ成功はしません。それが怖い所ですね……」
「それは流石にないと思いたいものだな……少なくとも、俺は人の頃己中にある良心というものを信じたい」
「ええ、そうですね」

 ラベルグ様の言葉は、私が思っていた通りのものだった。
 彼はきっと、人の良心を信じられる人だ。私はそんな彼のことを、好ましく思っている。
 私の心は、そんなに清らかではない。最近は特にそう思う。とはいえ、それを深く考えるつもりはない。そんなことは、無駄なことだからだ。
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