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32.止まった馬車(モブside)
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「あの下らない女……絶対に許さない!」
「ニルーア様、どうか落ち着いてください」
「これが落ち着いていられますか! あんな風に侮辱されて……」
馬車の中で、王女ニルーアはフェルーナに対する愚痴を述べていた。
彼女にとって、元聖女やいとこのラベルグ、村の者達、さらにはやられたり逃げ出したりした王城の魔法使い達まで、気に食わないものだった。
「あの村は焼き尽くします。手配をしてください」
「ええ、それはもちろんそうしますが……王城の魔法使い達はどうされますか?」
「あんな役立たずどもは必要ありません。石像になった者達は、村と一緒に砕いてしまえばいいのです。逃げ出した者達は、捕まえなさい。この世に生まれたことを後悔する程に痛めつけて殺してあげますよ」
王女ニルーアは、下卑た笑みを浮かべていた。
彼女は、自らの権力を用いればなんでもできると思い込んでいる。自分達王族が、選ばれし者だと思っているのだ。
「……うん?」
「あれ? 止まりましたね」
「ちっ! なんですか、こんな時に……見て来なさい!」
「はい、ただいま」
そんなニルーアは、馬車が急に停止したことに腹を立てていた。
彼女は、お付きのメイドに対して口汚く指示を出した。するとメイドは、すぐに様子を見に行く。
ニルーアは自分に従順な者は気に入っていた。お付きのメイドは、その最たる例だ。そんな彼女のように、全員が自分に従うことをニルーアは望んでいる。というよりも、彼女はそれが当然のことだと思っているのだ。
「え? きゃあっ!」
「……うん?」
そんなニルーアの耳に聞こえてきたのは。お付きのメイドの叫び声であった。
その声に、ニルーアは額から汗を流した。護衛として連れて来た魔法使い達は、先程の一件でいなくなっている。その事実を思い出したのだ。
今ここで野盗に襲われたらどうなるのか。それを考えてニルーアは震える。
「……野盗などではありませんよ」
「え?」
「もっとも、あなたにとってはもっと質が悪いものかもしれませんがね」
「あ、あなたは……」
怯えているニルーアは、馬車の戸が開かれて中に入って来た者の顔を見て驚いた。
そこには、見知った顔がある。ニルーアにとってはいとこにあたるドルメア公爵家のルナーラだ。
「ど、どうしてあなたがここに……?」
「さて、何故でしょうかね? ですが、私がこんな状況でここに来たのですから、少しくらいは察してもらいたいものですがね……」
「あなた、何をっ……」
ルナーラの言葉によって、ニルーアは事態を大まかに掴むことになった。
見えてこないものがあるものの、それでもニルーアは理解した。ルナーラがここに来たことが、自分にとって不幸なことであるということを。
「ニルーア様、どうか落ち着いてください」
「これが落ち着いていられますか! あんな風に侮辱されて……」
馬車の中で、王女ニルーアはフェルーナに対する愚痴を述べていた。
彼女にとって、元聖女やいとこのラベルグ、村の者達、さらにはやられたり逃げ出したりした王城の魔法使い達まで、気に食わないものだった。
「あの村は焼き尽くします。手配をしてください」
「ええ、それはもちろんそうしますが……王城の魔法使い達はどうされますか?」
「あんな役立たずどもは必要ありません。石像になった者達は、村と一緒に砕いてしまえばいいのです。逃げ出した者達は、捕まえなさい。この世に生まれたことを後悔する程に痛めつけて殺してあげますよ」
王女ニルーアは、下卑た笑みを浮かべていた。
彼女は、自らの権力を用いればなんでもできると思い込んでいる。自分達王族が、選ばれし者だと思っているのだ。
「……うん?」
「あれ? 止まりましたね」
「ちっ! なんですか、こんな時に……見て来なさい!」
「はい、ただいま」
そんなニルーアは、馬車が急に停止したことに腹を立てていた。
彼女は、お付きのメイドに対して口汚く指示を出した。するとメイドは、すぐに様子を見に行く。
ニルーアは自分に従順な者は気に入っていた。お付きのメイドは、その最たる例だ。そんな彼女のように、全員が自分に従うことをニルーアは望んでいる。というよりも、彼女はそれが当然のことだと思っているのだ。
「え? きゃあっ!」
「……うん?」
そんなニルーアの耳に聞こえてきたのは。お付きのメイドの叫び声であった。
その声に、ニルーアは額から汗を流した。護衛として連れて来た魔法使い達は、先程の一件でいなくなっている。その事実を思い出したのだ。
今ここで野盗に襲われたらどうなるのか。それを考えてニルーアは震える。
「……野盗などではありませんよ」
「え?」
「もっとも、あなたにとってはもっと質が悪いものかもしれませんがね」
「あ、あなたは……」
怯えているニルーアは、馬車の戸が開かれて中に入って来た者の顔を見て驚いた。
そこには、見知った顔がある。ニルーアにとってはいとこにあたるドルメア公爵家のルナーラだ。
「ど、どうしてあなたがここに……?」
「さて、何故でしょうかね? ですが、私がこんな状況でここに来たのですから、少しくらいは察してもらいたいものですがね……」
「あなた、何をっ……」
ルナーラの言葉によって、ニルーアは事態を大まかに掴むことになった。
見えてこないものがあるものの、それでもニルーアは理解した。ルナーラがここに来たことが、自分にとって不幸なことであるということを。
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