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28.人々の反発

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「ニルーア殿下、私はあなたに従うつもりはありません」
「な、なんですって?」

 ラベルグ様は、端的に言葉を発した。その明確な拒絶に、ニルーア様は驚いている。
 私の方は、安心していた。ラベルグ様と敵対するのは、心情的に厳しいものだ。それが避けられたのは、幸いなことである。

「あなた、わかっているのですか? この私に逆らうということは、騎士団の一員でいられなくなるということです! それにあなたはドルメア公爵家の一員――身内と敵対するというなら、あなたは貴族でいられなくなります」
「元より、貴族の地位などというものに価値は感じておりません。騎士団から除名されることは残念ではありますが、だからといって私は誇りを失いたくはありません。あなたに従うことは騎士の道に反しています」
「騎士の道? そんな下らないもののために、今の地位を捨てるというのですか!」

 ニルーア様は、ラベルグ様に対して激昂していた。
 こんな人のせいでラベルグ様が騎士でなくなるというのは、残念なことだ。心が痛くなってくる。
 ただそれでも、彼は騎士としての誇りを忘れはしないだろう。例え肩書きがなかったとしても、彼は騎士であり続けるはずだ。

「あなたにはわからないことでしょう。しかし主君の間違いを正すのも、騎士の役目の一つだと心得ています。故に敢えて言わせていただきますが、もっと自分を省みた方が良い」
「こ、この私に説教しようというのですか? 薄汚い妾の子の分際で、一族の一員ぶらないでください!」

 ニルーア様は、滅茶苦茶なことを言っていた。
 ラベルグ様は、別に一族の一員として言葉を発した訳ではない。ただ騎士として、進言しただけである。
 それなのに彼のことを侮辱するニルーア様に、私は憤りを感じていた。しかしそれは、私だけではなかったようだ。

「さっきから聞いてりゃあ、なんだその言い分は」
「……え?」
「王女様だからって、そんなに言うなんてひどい話じゃないか」
「そうだ、そうだ。ひどいものじゃないか」
「フェルーナにも、ラベルグにも、あなたは身勝手なことを言って!」

 村の皆は、ニルーア様を口々に非難し始めていた。
 私やラベルグ様と親しい関係があった皆にとって、ニルーア様の言い分は不快なものだったのだろう。それが一気に爆発しているようだ。
 相手が王女であろうと、最早それは関係がない。皆、我慢の限界だったのだろう。その言葉に、ニルーア様は表情を歪めている。

「……こ、こんな村、滅ぼしてやります! フェルーナ、あなたのことも許しません。追い詰めて追い詰めて、私に逆らったことを後悔させてあげます!」

 ニルーア様は、最後にそれだけ言って後退していった。
 それはなんというか、敗走という他ないような気がする。その捨て台詞まで、なんとも不愉快なものだ。
 とはいえ、これからのことは考えておかなければならない。ニルーア様は本気だろう。それこそ騎士団などをけしかけてくるかもしれない。手を打っておかなければならないだろう。
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