「平民が聖女になれただけでも感謝しろ」とやりがい搾取されたのでやめることにします。

木山楽斗

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15.王女への忠告

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「一つ、忠告しておきます」
「……忠告?」
「ええ、私に手を出さないでください」
「何を言って――」

 ニルーア様は、途中で言葉を途切れさせた。
 それはこの王城が、大きく揺れたからだろう。その揺れによって、彼女の体は大きく傾いた。バランスを崩したということだろう。

「うぐっ……な、何が?」
「外を見ればわかることですよ」
「外……?」

 突然のことに困惑したニルーア様は、私の言葉に素直に従った。
 彼女は、自分の後ろにある窓から外の様子を伺った。そしてニルーア様は、私の方を二度見した。その目からは、驚愕していることが伝わってくる。

「これは、一体……何が起こっているのですか? 王城が、動いて……」
「私が動かしたのです」
「そ、そんな馬鹿なことが……」
「私はそんな馬鹿なことができるのですよ、ニルーア様」

 私は魔法を使って、王城をほんの少し動かした。
 できるとは思っていたが、実際にやってみると左程難しいことでもないということがわかった。やろうと思えば、この王城をここから王都の端まで動かせそうだ。
 故によくわかった。やろうと思えば、この王城くらい落とすことができるのだと。そう考えると、目の前にいるニルーア様などがひどく滑稽に思えてくる。

「もう一度言います。私に手を出さないでください。あなたが余計なことをすると、こちらもそれなりの対処をしなければなりませんから」
「……な、何を言って」
「私が本気になれば、この国くらい揺るがせるということです」
「そ、そんなことができる訳ないでしょう! 一人の人間に一国が滅ぼせる訳が……」

 ニルーア様は、怯えているようだった。
 自分が今まで、どのような存在に対してひどい扱いをしてきたか、それがやっと理解できたのだろうか。
 ただ私としては、最早どうでも良いことだ。できるとしても、国を滅ぼしたいと思っている訳ではない。放っておいてくれるならそれでいいと、私は思っている。

「私は、あなた達が何かをしてこなければ、何かをするつもりはありません。だから放っておいていただけますか?」
「わ、私を脅すというのですか? この私をっ……」
「私が言いたいのは、どちらが上かということです。あなたが私を脅すなんてことはできないと、理解していただきたいのです」
「あっ! ああっ……」

 私は、もう一度王城を動かしてみせた。
 元の位置に戻しておかなければ、色々と困るだろう。
 それにこれは、ニルーア様に対する警告にもなる。今の怯えた目をしている彼女は、とても私に立ち向かえそうにはない。このままそっとしておいてくれるだろう。
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