上 下
14 / 30

14.帰路につきながら

しおりを挟む
 結局今日は、チームの全員が反射魔法を覚えるという行程で一日の業務が終わった。
 魔法を修得するというのは、結構大変なことだ。難しい魔法なら、一か月くらいかかることもある。
 そのため、私が個人的に開発した魔法をたった一日で全員が覚えるというのはかなりすごいことだといえるだろう。やはり、王城で勤務する魔術師団員は皆レベルが高い。

「ふう……」

 そんなことを考えながら、私は帰路に着いていた。
 私は現在、魔術師団の宿舎で暮らしている。宿舎は王城のすぐ近くにあるので、帰るのにそれ程時間はかからない。

「お疲れのようですね、ラナトゥーリ嬢」
「はい、アムティリアさん……正直、とても疲れています」
「まあ、そうですよね。私も最初の頃はくたくたになっていたと思います」

 侯爵令嬢というそれなりに地位があることもあって、魔術師団員の多くはそれ程私に積極的に話しかけてこなかった。
 そんな中で私に一緒に帰ろうと言ってくれたのは、アムティリア・ハルフェルト伯爵令嬢である。
 それは私にとってとてもありがたいことだった。ナルルグさんやドナウさんは良くしてくれていたが、やはり同姓で頼れる先輩がいてくれるというのは嬉しい。

「それにラナトゥーリ嬢は、いきなり重要な立場に就いていましたからね……まあそれは才能があるからこそということではありますが、中々厳しいですよね」
「そうですね……皆さんに魔法を教えるというのは、結構大変でした」
「良い指導をしていただいたと思っています。本当にありがとうございました」
「あ、いえ、そんな……」

 私が今日こんなにも疲れているのは、指導する立場だったというのもあるのだろう。
 よく考えてみれば、魔法を実践して開発して指導をするというのは新人には中々厳しい一日だったような気がする。
 それでもなんとかやり遂げたというのは、もしかしたらすごいことなのかもしれない。

「本当に、ラナトゥーリ嬢は優秀な魔術師ですね」
「いえ、そんなことはありません。アムティリアさんやナルルグさん達に比べるとまだまだです」
「いいえ、私が新人の頃はあなた程に優秀ではありませんでした。ラナトゥーリ嬢には、確かな才能があります。きっと魔術師団で大きなことを成し遂げられると思います」
「そ、そうでしょうか……」

 アムティリアさんは、私のことをかなり買ってくれているようだ。
 もちろん、それはお世辞の可能性もあるだろう。侯爵令嬢である私に、気を遣ってくれているのかもしれない。
 しかしそれでも、少しだけ勇気が湧いてきた。これからも魔術師団で頑張っていこうと思える。

「それにラナトゥーリ嬢はもしかしたら魔術師としてだけではなく、躍進されていくかもしれませんしね……」
「……それは、どういうことですか?」
「いえ、その辺りに関しては私から言うべきことではないと思いますので」
「えっと……」
「まあ、お気になさらないでください。何れわかることだと思いますから」

 アムティリアさんはそう言って楽しそうに笑っていた。
 しかしその言葉の意味が、私にはわからない。魔術師として以外に、私が活躍できることなんてあるのだろうか。

「ああそういえば、宿舎はどうですか? それ程不便はない所だとは思っていますが、困ったことなどはありませんか?」
「あ、それは大丈夫です。思っていた以上にいい所で驚いているくらいです」
「まあ、一応王城の管轄ですからね」
「ああ、よく考えてみればそうでしたね……」
「何はともあれ、明日からも業務は続く訳ですから今日はゆっくりと休んでくださいね」
「はい、そうさせてもらいます」

 アムティリアさんの言葉に、私はゆっくりと頷いた。
 今日は本当に疲れている。しっかりと休んで、明日からの業務に備えるべきだろう。
 こうして私は、宿舎に帰るのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした

黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

婚約破棄をいたしましょう。

見丘ユタ
恋愛
悪役令嬢である侯爵令嬢、コーデリアに転生したと気づいた主人公は、卒業パーティーの婚約破棄を回避するために奔走する。 しかし無慈悲にも卒業パーティーの最中、婚約者の王太子、テリーに呼び出されてしまうのだった。

【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした

犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。 思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。 何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。

三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*  公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。  どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。 ※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。 ※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。

気がついたら乙女ゲームの悪役令嬢でした、急いで逃げだしました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 もっと早く記憶を取り戻させてくれてもいいじゃない!

処理中です...