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8.訪問とともに

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 お茶会であった出来事から、私はラチェルド様のことについて調べることにした。
 ただ、それは簡単なことではない。ラチェルド様に探りがばれたら問題になるかもしれないし、ことは慎重に進めるべきだろう。

 そう思った私は、とりあえず直近に控えていたラネルソン子爵家の屋敷への訪問まで、行動をしないことにした。まずは本人と話して、それとなく探ってみることにしたのだ。
 それと同時に、調査も開始することに決めている。私の訪問に紛れて、密偵達が行動を開始するというのは、雲隠れとしても丁度良かったのだ。

「実は先日、友人であるフェレーナ・ハルベルト伯爵令嬢が主催するお茶会に参加したのです」
「ああ、よく聞く例のお茶会ですか」
「ラチェルド様も、参加したことがありますよね?」
「ええ、そうですね。もう随分と前のことになりますが……」

 私の言葉に対して、ラチェルド様はぎこちなく頷いた。
 その反応に、私は違和感を覚える。別に今は、特に探りを入れようと思った訳でもない。だというのに、そんな反応をされるとは驚きだ。
 お茶会の話は、これまでも何度かしている。それなのに、どうして今日に限ってそういう反応をするのだろうか。それは、とても気になる反応だ。

「弟のキーファスも一緒でした」
「キーファス子爵令息も?」

 とりあえず話を続けようと思って弟の名前を出すと、ラチェルド様はまた奇妙な反応を返してきた。
 それは、先程までと比べて少し怒っているようにも見えた。しかし、彼がキーファスに対してそのような反応がする理由がわからない。二人はそこまで関わっているという訳でもないのに。

 以前会った時に、何か弟が無礼なことでもしたのだろうか。それはあり得ない話という訳でもない。私が席を外していた間などに何かあった可能性はある。
 ただそれなら、少なくともキーファスから話が出るような気もしてしまう。彼が無自覚にラチェルド様に無礼を働いたということだろうか。

「弟には、友人……というよりも、慕っている人、兄貴分とでもいうのでしょうか。そういう人がいるのです」
「そうですか。それで?」
「ソルメア侯爵家のスレイグ様という方なのですが……」
「その令息が、どうかしたのですか?」

 ラチェルド様の言葉には、刺々しさというものがあった。
 キーファスのことに関する怒りというものが、未だに収まっていないのかもしれない。それとも、スレイグ様と何か因縁があるということだろうか。

 何はともあれ、今空気が重たいということは紛れもない事実である。
 私はまだ、お茶会で抱いた懸念に関する探りを入れているという訳でもない。それなのにこうなるということは、まったくの予想外である。
 浮気しているかどうかはわからないが、ラチェルド様が何かを抱えていることは間違いないようだ。彼の鋭い視線にそのようなことを思いながら、私は次の言葉を考えるのだった。
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