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9.隣国の王太子

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 私は、スウェンド王国の王城に来ていた。
 今回、私を助けてくれたのはこの国の王太子であるアグナヴァン様だ。
 客室に通された私は、彼のことを待っていた。正直、少し緊張している。知り合いとはいえ、相手は王子だ。緊張しない方が無理というものである。

「……失礼する」
「あっ……」

 部屋の戸が叩かれる音とともに、低い声が聞こえてきた。
 その声には、聞き覚えがある。久し振りではあるが間違いない。アグナヴァン様の声だ。

「フェルーナ殿、入っても構わないか?」
「ええ、どうぞお入りください」
「では、失礼させてもらう」

 私の返答を聞いてから、アグナヴァン様はゆっくりと部屋の中に入ってきた。
 彼は、屈強な男性である。筋肉質なその体は、いつ見ても見事なものだ。
 その肉体と強面な顔だけなら、少し怖い人のように思える。だが、彼は内面も素晴らしい人なのだ。知性と優しさに満ちたその頭脳も合わせて、正に王に相応しい人だといえる。

「……フェルーナ殿、あなたと会うのは随分と久し振りのことだな?」
「ええ……アグナヴァン様、今回は助けていただき、本当にありがとうございました」
「気にすることはない。あなたを助けたのは、こちらにも利益があったからだ」

 私とアグナヴァン様は握手を交わした。
 彼の握力はとても強い。その強さに応えるように、私もしっかりと握りしめる。

「今回は、色々と大変だったようだな……まさか、あなたのような人が罪人として追放されることになるとは」
「色々と複雑な事情がありまして……アグナヴァン様は、教授からどこまで聞いていますか?」
「教授からは最低限のことしか聞いていない。故に、事情をそこまで知っている訳ではないのだ。だが、あなたが聖女として不適格であるとみなされたということは聞いている」

 アグナヴァン様は、大まかな事情しか知らないようだ。
 それなら、事情を最初から説明した方がいいだろう。彼にも、今回の件は把握しておいてもらいたいものだ。

「全ての発端は、妹のホーネリアが王城を訪ねて来たことです。彼女によって、私は魔力を奪われて、偽りの聖女だったとして裁かれることになったのです」
「魔力を奪われる……そのようなことができるのか?」
「ええ、方法はわからないのですが、そのようなことができるようです。実際に魔力をあまり持っていなかったホーネリアは多大な魔力を持っていました。逆に、私の魔力はなくなっていたのです」
「それは恐ろしいものだな……」

 アグナヴァン様は、私の言葉に驚いているようだった。
 それは、当然の反応である。他人の魔力をまるまる奪う。そんなことができるというのは、とても恐ろしいことだ。

「彼女は、特別な魔導書を持っていました。それをどこから得たのかはわかりませんが……」
「……この世には、未知の魔法が存在することは知っている。そのような奇妙なものがあるということか……」
「ええ、そうですね……」

 ホーネリアは、一体どこで魔力を奪う方法が記された魔導書を見つけたのだろうか。
 未知の魔導書というものは、珍しいものだ。どうやって手に入れたのか、それは少し気になる所である。
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