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16.私情のために(モブside)

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「この国に流れている下らない噂というものはどうにかならないものなのですか?」
「どうにかなるなら、どうにかしているに決まっているだろう。僕だって不愉快極まりない」

 ラルリアが期待する二人は、王城の一室で騒いでいた。
 彼らが話し合っているのは、この国で言われていることだ。バレリア公爵家と婚約するにしても、その対象はリルルナの方が良い。これがレジエート王国の多くの貴族の見解であった。
 それは当然のことながら、二人にとっては忌むべきことだ。彼らは、今この瞬間においては、私情を優先しているといえる。

「大体、お姉様より私の方が王妃に相応しいなんて、一体どの基準において考えられていることなのか理解できませんね」
「僕にとっては非常に珍しいことではあるが、君と同じ感想を抱いている。ラルリア程に王妃に相応しい女性などいないというのに……」
「まあ所詮は物事の道理というものを知らない愚か者達の発言でしかないということでしょうね。そういった方々は得てしてお姉様の足元にも及ばない」

 基本的には考えが一致しない二人であったが、ラルリアの話題に関しては別であった。彼女を褒め称える時だけ息が合う。それがこの二人の性質である。

「……何やら騒がしいと思ったら」
「うん?」
「あなたは……」

 そんな二人が王城のベランダでワイワイ騒いでいたためか、それを聞きつけてやって来るものがいた。
 その人物のことを、二人はよく知っている。二人にとっても馴染み深いその男性は、ゆっくりと近づいて呆れたような笑みを浮かべた。

「兄上、それからリルルナ嬢、こんな所で何を騒いでいるのですか」
「イーヴェル、確かにこのような場所で騒ぐのは良いことではないかもしれない。だけれどこれは仕方ないことなんだ。どうか理解してくれ」
「不本意ではありますが同意します。今のような状況においては、騒がしくなるのも仕方ないこと、それは紛れもない事実ですから」

 王国の第二王子であるイーヴェルは、二人の言葉に苦笑いを浮かべることになった。
 自分の兄といとこの無茶苦茶な主張に対しては、そうすることしかできなかったのである。
 ただ、そういった二人の態度にイーヴェルも慣れていないという訳でもない。故に彼の中では、すぐに結論が出た。二人が何の話をしているかを、理解したのである。

「なるほど、ラルリア嬢のことで話をしていたのですか……」
「まあ、そういうことではあるのだが……」
「二人は彼女のこととなると、すぐに熱くなる。もう少し冷静になられた方がよろしいかと……しかし、気持ちはよくわかります」

 事態を悟ったイーヴェルは、少しその表情を強張らせていた。
 彼は、二人程に感情的にはなっていない。しかしながらそれでも、心を燃え上がらせていた。ラルリアは彼にとっても、特別な存在であるのだ。
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