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14.利害の一致(モブside)
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「……人生において、僕は失敗を犯したことが数える程しかないと思っている」
「それは誤魔化しているだけでしょう。本当に成功ばかりしているのはこの私です」
「しかしながら、これは失敗だったと言わざるを得ないな。すまなかった。悪いと思っている」
「おや……」
アドルヴの言葉に、リルルナは目を丸めていた。
それは彼が謝罪するなんて、夢に思っていなかったからだろう。
アドルヴも、彼女に対して謝罪する日が来るとは思っていなかった。しかし今回は、彼女の気持ちをよく理解しているため、自然とそうしていたのである。
「君との婚約なんて話は、最悪だ。こんなにも追い詰められるとは思っていなかった」
「私だってそうですよ。まったく、余計なことばかりして……」
「ラルリアとの婚約に関しては、本当に王家に対して利益があるものだとは思っている。バレリア公爵家以外の貴族は信用することができない。それが今のこの国の現状だ」
「まあ、その点に関しては理解できない訳でもありませんが……」
真面目な話だからか、リルルナは特にアドルヴの言葉に反発はしなかった。
実際の所、レジエート王国の貴族の中には野心を持つ者も多い。現在の国王が寛大で大らかであるが故に、この国の実質的な支配者となろうとする者が現れないとは言い難いのだ。
だからこそ、アドルヴはバレリア公爵家と婚約する方が良いと思っていた。その対象として、個人的な意思も含めてラルリアを選んだのだ。長女ということもあって、父親である国王もそれには納得してくれていた。
ただ、今は状況が変わっている。国王も、リルルナと結婚させる方が良いのではないかと考え始めているのだ。
「それに不本意ながらも、あなたとお姉様との結婚はギリギリで悪くないとも思っていますしね……」
「何?」
「どこの誰だかわからない馬の骨よりは、あなたの方がマシだと言っているんです。そもそも嫁に行かせるというのも気に入りはしませんが、貴族としてそれが義務である以上、許容するなら王家の誰かの嫁に行くのはまだ許せます。私としても都合が良い」
「なるほど……利害は一致しているという訳か」
アドルヴとリリルナは、決して穏やかな雰囲気ではなかった。
しかしながら彼らは、立場を重んじながらも自分達にとって都合が良いようにことを進めたいと思っている。その方向は同じであった。故に手を組むことに躊躇いはない。
「お姉様と結婚しても、私とお姉様の時間を尊重すると約束してください。あなたのことですから、どうせ必死に邪魔するつもりだったのでしょうけれど」
「そのように思ったことはないさ。ラルリアは君のことを大切にしている。君のことは気に入らないが、僕が優先するのはラルリアの幸せだ。元より突き放そうとは思っていなかった」
「あなたのことを初めて尊敬しました。意外にも殊勝な考えができるのですね」
利害の一致により、二人は手を取ることを選んだ。
もう一人の当事者であるラルリアが知らぬ内に、同盟が結ばれたのである。
「それは誤魔化しているだけでしょう。本当に成功ばかりしているのはこの私です」
「しかしながら、これは失敗だったと言わざるを得ないな。すまなかった。悪いと思っている」
「おや……」
アドルヴの言葉に、リルルナは目を丸めていた。
それは彼が謝罪するなんて、夢に思っていなかったからだろう。
アドルヴも、彼女に対して謝罪する日が来るとは思っていなかった。しかし今回は、彼女の気持ちをよく理解しているため、自然とそうしていたのである。
「君との婚約なんて話は、最悪だ。こんなにも追い詰められるとは思っていなかった」
「私だってそうですよ。まったく、余計なことばかりして……」
「ラルリアとの婚約に関しては、本当に王家に対して利益があるものだとは思っている。バレリア公爵家以外の貴族は信用することができない。それが今のこの国の現状だ」
「まあ、その点に関しては理解できない訳でもありませんが……」
真面目な話だからか、リルルナは特にアドルヴの言葉に反発はしなかった。
実際の所、レジエート王国の貴族の中には野心を持つ者も多い。現在の国王が寛大で大らかであるが故に、この国の実質的な支配者となろうとする者が現れないとは言い難いのだ。
だからこそ、アドルヴはバレリア公爵家と婚約する方が良いと思っていた。その対象として、個人的な意思も含めてラルリアを選んだのだ。長女ということもあって、父親である国王もそれには納得してくれていた。
ただ、今は状況が変わっている。国王も、リルルナと結婚させる方が良いのではないかと考え始めているのだ。
「それに不本意ながらも、あなたとお姉様との結婚はギリギリで悪くないとも思っていますしね……」
「何?」
「どこの誰だかわからない馬の骨よりは、あなたの方がマシだと言っているんです。そもそも嫁に行かせるというのも気に入りはしませんが、貴族としてそれが義務である以上、許容するなら王家の誰かの嫁に行くのはまだ許せます。私としても都合が良い」
「なるほど……利害は一致しているという訳か」
アドルヴとリリルナは、決して穏やかな雰囲気ではなかった。
しかしながら彼らは、立場を重んじながらも自分達にとって都合が良いようにことを進めたいと思っている。その方向は同じであった。故に手を組むことに躊躇いはない。
「お姉様と結婚しても、私とお姉様の時間を尊重すると約束してください。あなたのことですから、どうせ必死に邪魔するつもりだったのでしょうけれど」
「そのように思ったことはないさ。ラルリアは君のことを大切にしている。君のことは気に入らないが、僕が優先するのはラルリアの幸せだ。元より突き放そうとは思っていなかった」
「あなたのことを初めて尊敬しました。意外にも殊勝な考えができるのですね」
利害の一致により、二人は手を取ることを選んだ。
もう一人の当事者であるラルリアが知らぬ内に、同盟が結ばれたのである。
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