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12.目下の問題(モブside)
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「……さて、どうしたものか」
レジエート王国の王太子であるアドルヴは悩んでいた。
いとこであるラルリアとの婚約、それが彼の目下にある問題だ。それは想定では、もう少しすんなりと決まるはずのものだった。だが今は、厄介なことになっている。
「父上はラルリアの提案について熟考すると言っていたが、どうなることやら……」
ラルリアの妹であるリルルナとの婚約を、アドルヴは望んでいない。
彼にとって彼女は、親しい親族ではあるが、結婚する対象としては論外だ。相手もそう思っていることを、アドルヴは理解している。
しかしながら、個人の趣向で婚約を決めてはならないと、アドルヴは言われたばかりだ。そのラルリアの言葉は、彼の中で反芻している。なぜならラルリアとの婚約とは正しく、個人の趣向によって決められたものであるからだ。
「……何をぐちぐちと言っているんですか?」
「……え?」
一人思案していたアドルヴは、聞こえてきた声に固まることになった。
ここは王城の彼の自室である。今は夜で、人が来るような時間ではなかった。そもそも、無許可で入るものなどいるはずがない。
そう考えてからアドルヴは、その声が聞き覚えのあるものだと気付いた。少なくとも賊ではない。ほんの少しだけ安心しながら、アドルヴは後ろを振り返る。
「……リルルナ、あなたでしたか」
「ええ、私ですけれど……その反吐が出る程気色の悪い態度はなんですか?」
「ひどい言われようですね……」
そこにいたのは、いとこであるリルルナだった。
彼女がどうやってこんな所まで来たのか。それをアドルヴはすぐに理解した。秀でた魔法の才能を持つ彼女ならば、それくらいのことは可能なのだと。
そんなリルルナは、アドルヴに対して冷たい視線を向けている。その敵意ともとれる視線に呆れたような笑みを浮かべることしかできない。
「まさかそれで本当に誤魔化せていると思っているのですか? 思い上がりも甚だしい。あなたはそんな品行方正な人間ではないでしょうに」
「……」
リルルナからさらに辛辣な言葉を投げかけられた時、アドルヴはつい口の端を釣り上げていた。
それではいけない。そう思って彼は表情を戻そうとするが、それは叶わなかった。この状況において彼は、最早自分の感情を隠すことができなくなっていたのだ。
「君に言われたくはないなぁ」
「私はあなたと違って、隠してはいませんよ」
「これでも王太子なんだ。立場というものがある。下の者に示しがつかないと困るだろう」
アドルヴはそう言いながら、笑みを浮かべていた。
それはいつもの爽やかな笑みではない。どちらかというと、悪人のような笑みであった。
レジエート王国の王太子であるアドルヴは悩んでいた。
いとこであるラルリアとの婚約、それが彼の目下にある問題だ。それは想定では、もう少しすんなりと決まるはずのものだった。だが今は、厄介なことになっている。
「父上はラルリアの提案について熟考すると言っていたが、どうなることやら……」
ラルリアの妹であるリルルナとの婚約を、アドルヴは望んでいない。
彼にとって彼女は、親しい親族ではあるが、結婚する対象としては論外だ。相手もそう思っていることを、アドルヴは理解している。
しかしながら、個人の趣向で婚約を決めてはならないと、アドルヴは言われたばかりだ。そのラルリアの言葉は、彼の中で反芻している。なぜならラルリアとの婚約とは正しく、個人の趣向によって決められたものであるからだ。
「……何をぐちぐちと言っているんですか?」
「……え?」
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そう考えてからアドルヴは、その声が聞き覚えのあるものだと気付いた。少なくとも賊ではない。ほんの少しだけ安心しながら、アドルヴは後ろを振り返る。
「……リルルナ、あなたでしたか」
「ええ、私ですけれど……その反吐が出る程気色の悪い態度はなんですか?」
「ひどい言われようですね……」
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彼女がどうやってこんな所まで来たのか。それをアドルヴはすぐに理解した。秀でた魔法の才能を持つ彼女ならば、それくらいのことは可能なのだと。
そんなリルルナは、アドルヴに対して冷たい視線を向けている。その敵意ともとれる視線に呆れたような笑みを浮かべることしかできない。
「まさかそれで本当に誤魔化せていると思っているのですか? 思い上がりも甚だしい。あなたはそんな品行方正な人間ではないでしょうに」
「……」
リルルナからさらに辛辣な言葉を投げかけられた時、アドルヴはつい口の端を釣り上げていた。
それではいけない。そう思って彼は表情を戻そうとするが、それは叶わなかった。この状況において彼は、最早自分の感情を隠すことができなくなっていたのだ。
「君に言われたくはないなぁ」
「私はあなたと違って、隠してはいませんよ」
「これでも王太子なんだ。立場というものがある。下の者に示しがつかないと困るだろう」
アドルヴはそう言いながら、笑みを浮かべていた。
それはいつもの爽やかな笑みではない。どちらかというと、悪人のような笑みであった。
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