王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?

木山楽斗

文字の大きさ
上 下
12 / 24

12.目下の問題(モブside)

しおりを挟む
「……さて、どうしたものか」

 レジエート王国の王太子であるアドルヴは悩んでいた。
 いとこであるラルリアとの婚約、それが彼の目下にある問題だ。それは想定では、もう少しすんなりと決まるはずのものだった。だが今は、厄介なことになっている。

「父上はラルリアの提案について熟考すると言っていたが、どうなることやら……」

 ラルリアの妹であるリルルナとの婚約を、アドルヴは望んでいない。
 彼にとって彼女は、親しい親族ではあるが、結婚する対象としては論外だ。相手もそう思っていることを、アドルヴは理解している。

 しかしながら、個人の趣向で婚約を決めてはならないと、アドルヴは言われたばかりだ。そのラルリアの言葉は、彼の中で反芻している。なぜならラルリアとの婚約とは正しく、個人の趣向によって決められたものであるからだ。

「……何をぐちぐちと言っているんですか?」
「……え?」

 一人思案していたアドルヴは、聞こえてきた声に固まることになった。
 ここは王城の彼の自室である。今は夜で、人が来るような時間ではなかった。そもそも、無許可で入るものなどいるはずがない。
 そう考えてからアドルヴは、その声が聞き覚えのあるものだと気付いた。少なくとも賊ではない。ほんの少しだけ安心しながら、アドルヴは後ろを振り返る。

「……リルルナ、あなたでしたか」
「ええ、私ですけれど……その反吐が出る程気色の悪い態度はなんですか?」
「ひどい言われようですね……」

 そこにいたのは、いとこであるリルルナだった。
 彼女がどうやってこんな所まで来たのか。それをアドルヴはすぐに理解した。秀でた魔法の才能を持つ彼女ならば、それくらいのことは可能なのだと。
 そんなリルルナは、アドルヴに対して冷たい視線を向けている。その敵意ともとれる視線に呆れたような笑みを浮かべることしかできない。

「まさかそれで本当に誤魔化せていると思っているのですか? 思い上がりも甚だしい。あなたはそんな品行方正な人間ではないでしょうに」
「……」

 リルルナからさらに辛辣な言葉を投げかけられた時、アドルヴはつい口の端を釣り上げていた。
 それではいけない。そう思って彼は表情を戻そうとするが、それは叶わなかった。この状況において彼は、最早自分の感情を隠すことができなくなっていたのだ。

「君に言われたくはないなぁ」
「私はあなたと違って、隠してはいませんよ」
「これでも王太子なんだ。立場というものがある。下の者に示しがつかないと困るだろう」

 アドルヴはそう言いながら、笑みを浮かべていた。
 それはいつもの爽やかな笑みではない。どちらかというと、悪人のような笑みであった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

クレアは婚約者が恋に落ちる瞬間を見た

ましろ
恋愛
──あ。 本当に恋とは一瞬で落ちるものなのですね。 その日、私は見てしまいました。 婚約者が私以外の女性に恋をする瞬間を見てしまったのです。 ✻基本ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

【完結】愛しき冷血宰相へ別れの挨拶を

川上桃園
恋愛
「どうかもう私のことはお忘れください。閣下の幸せを、遠くから見守っております」  とある国で、宰相閣下が結婚するという新聞記事が出た。  これを見た地方官吏のコーデリアは突如、王都へ旅立った。亡き兄の友人であり、年上の想い人でもある「彼」に別れを告げるために。  だが目当ての宰相邸では使用人に追い返されて途方に暮れる。そこに出くわしたのは、彼と結婚するという噂の美しき令嬢の姿だった――。  これは、冷血宰相と呼ばれた彼の結婚を巡る、恋のから騒ぎ。最後はハッピーエンドで終わるめでたしめでたしのお話です。 完結まで執筆済み、毎日更新 もう少しだけお付き合いください 第22回書き出し祭り参加作品 2025.1.26 女性向けホトラン1位ありがとうございます

こんな人とは頼まれても婚約したくありません!

Mayoi
恋愛
ダミアンからの辛辣な一言で始まった縁談は、いきなり終わりに向かって進み始めた。 最初から望んでいないような態度に無理に婚約する必要はないと考えたジュディスは狙い通りに破談となった。 しかし、どうしてか妹のユーニスがダミアンとの縁談を望んでしまった。 不幸な結末が予想できたが、それもユーニスの選んだこと。 ジュディスは妹の行く末を見守りつつ、自分の幸せを求めた。

好きな人と友人が付き合い始め、しかも嫌われたのですが

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
ナターシャは以前から恋の相談をしていた友人が、自分の想い人ディーンと秘かに付き合うようになっていてショックを受ける。しかし諦めて二人の恋を応援しようと決める。だがディーンから「二度と僕達に話しかけないでくれ」とまで言われ、嫌われていたことにまたまたショック。どうしてこんなに嫌われてしまったのか?卒業パーティーのパートナーも決まっていないし、どうしたらいいの?

大きくなったら結婚しようと誓った幼馴染が幸せな家庭を築いていた

黒うさぎ
恋愛
「おおきくなったら、ぼくとけっこんしよう!」 幼い頃にした彼との約束。私は彼に相応しい強く、優しい女性になるために己を鍛え磨きぬいた。そして十六年たったある日。私は約束を果たそうと彼の家を訪れた。だが家の中から姿を現したのは、幼女とその母親らしき女性、そして優しく微笑む彼だった。 小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。

もっと傲慢でいてください、殿下。──わたしのために。

ふまさ
恋愛
「クラリス。すまないが、今日も仕事を頼まれてくれないか?」  王立学園に入学して十ヶ月が経った放課後。生徒会室に向かう途中の廊下で、この国の王子であるイライジャが、並んで歩く婚約者のクラリスに言った。クラリスが、ですが、と困ったように呟く。 「やはり、生徒会長であるイライジャ殿下に与えられた仕事ですので、ご自分でなされたほうが、殿下のためにもよろしいのではないでしょうか……?」 「そうしたいのはやまやまだが、側妃候補のご令嬢たちと、お茶をする約束をしてしまったんだ。ぼくが王となったときのためにも、愛想はよくしていた方がいいだろう?」 「……それはそうかもしれませんが」 「クラリス。まだぐだぐだ言うようなら──わかっているよね?」  イライジャは足を止め、クラリスに一歩、近付いた。 「王子であるぼくの命に逆らうのなら、きみとの婚約は、破棄させてもらうよ?」  こう言えば、イライジャを愛しているクラリスが、どんな頼み事も断れないとわかったうえでの脅しだった。現に、クラリスは焦ったように顔をあげた。 「そ、それは嫌です!」 「うん。なら、お願いするね。大丈夫。ぼくが一番に愛しているのは、きみだから。それだけは信じて」  イライジャが抱き締めると、クラリスは、はい、と嬉しそうに笑った。  ──ああ。何て扱いやすく、便利な婚約者なのだろう。  イライジャはそっと、口角をあげた。  だが。  そんなイライジャの学園生活は、それから僅か二ヶ月後に、幕を閉じることになる。

お姉様、わたくしの代わりに謝っておいて下さる?と言われました

来住野つかさ
恋愛
「お姉様、悪いのだけど次の夜会でちょっと皆様に謝って下さる?」 突然妹のマリオンがおかしなことを言ってきました。わたくしはマーゴット・アドラム。男爵家の長女です。先日妹がわたくしの婚約者であったチャールズ・ サックウィル子爵令息と恋に落ちたために、婚約者の変更をしたばかり。それで社交界に悪い噂が流れているので代わりに謝ってきて欲しいというのです。意味が分かりませんが、マリオンに押し切られて参加させられた夜会で出会ったジェレミー・オルグレン伯爵令息に、「僕にも謝って欲しい」と言われました。――わたくし、皆様にそんなに悪い事しましたか? 謝るにしても理由を教えて下さいませ!

不倫をしている私ですが、妻を愛しています。

ふまさ
恋愛
「──それをあなたが言うの?」

処理中です...