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1.落ちこぼれと言われて
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「知っているか? バレリア公爵家のラルリア嬢のことを」
「うん? ああ、あの落ちこぼれっていう……」
「そうそう。その落ちこぼれのことだよ」
舞踏会の会場にて聞こえてきた声に、私は思わず足を止めることになった。
ラルリア・バレリア、その人物について私はよく知っている。なぜなら、そのラルリアとはこの私だからだ。
「可哀想な人だよなぁ。公爵家に生まれたっていうのに、才能がないなんて」
「言えてるな。バレリア公爵家といえば、国王様の弟君の弟君の家だろう? そんな家に才能もなく生まれたなんて、ともすれば不幸なことかもしれないな」
私について話しているのは、二人の男性だった。
そんな二人の口振りからは、私に対する侮蔑の感情が読み取れる。
私とあの二人との間には、特に面識なんてものはない。私は彼らの名前も知らないくらいだ。
それなのにどうしてここまで嫌われているのか、その理由はなんとなく想像できる。
あれは恐らく、やっかみというものだ。下位の貴族の中には、上位の貴族に対して憎しみのような思いを抱いている者がいる。彼らもその一員であるということだろう。
彼らは気に入らない上位の貴族を批判する話の種として、私のことを利用している。恐らくはそんな所なのだろうが、当人である私からしたら溜まったものではない。
とはいえ、当然二人も私が聞いているなんて思ってはいないだろう。二人が話を止めることはない。友人間の戯れとして、二人は私のことをひどく馬鹿にする。
「そういう人に上に立たれているとさ、俺達としては気が気ではないよなぁ。ただ公爵家に生まれただけで偉くなるなんておかしな話だ」
「まあ、せめて能力くらいは上であって欲しいよなぁ。ほら、ラルリア嬢の妹、リルルナ嬢なんかはすごいんだろう?」
「よくわからないけど、そうみたいだな。でも、それも結局公爵家の権力によって誇張されているだけなんじゃないか?」
「ああ、そうか。そうだよなぁ。まったく、公爵家ってのはなんでも望み通りになる訳か」
二人は支離滅裂なことを言いながら、笑い合っていた。
公爵家の権力で望み通りになるのなら、私は落ちこぼれなんて言われていない。そんな簡単なことも、わからないということだろうか。
しかしながら、それも仕方のないことだといえる。二人が言っているのは、所詮やっかみだ。要するに私達公爵家のことを否定できるなら、何でも良いということなのだろう。
「……何やら楽しそうですね」
「うん?」
「誰だ? って、あ、あんたは……」
そんな風に呑気に話をしていた二人は、自分達の後ろから近づけて来ている人がいるとは気付かなかったようだ。
その人物の顔を見て、二人は驚いている。そこにいたのは、この国の王太子であり、私のいとこでもあるアドルヴ殿下だ。
「うん? ああ、あの落ちこぼれっていう……」
「そうそう。その落ちこぼれのことだよ」
舞踏会の会場にて聞こえてきた声に、私は思わず足を止めることになった。
ラルリア・バレリア、その人物について私はよく知っている。なぜなら、そのラルリアとはこの私だからだ。
「可哀想な人だよなぁ。公爵家に生まれたっていうのに、才能がないなんて」
「言えてるな。バレリア公爵家といえば、国王様の弟君の弟君の家だろう? そんな家に才能もなく生まれたなんて、ともすれば不幸なことかもしれないな」
私について話しているのは、二人の男性だった。
そんな二人の口振りからは、私に対する侮蔑の感情が読み取れる。
私とあの二人との間には、特に面識なんてものはない。私は彼らの名前も知らないくらいだ。
それなのにどうしてここまで嫌われているのか、その理由はなんとなく想像できる。
あれは恐らく、やっかみというものだ。下位の貴族の中には、上位の貴族に対して憎しみのような思いを抱いている者がいる。彼らもその一員であるということだろう。
彼らは気に入らない上位の貴族を批判する話の種として、私のことを利用している。恐らくはそんな所なのだろうが、当人である私からしたら溜まったものではない。
とはいえ、当然二人も私が聞いているなんて思ってはいないだろう。二人が話を止めることはない。友人間の戯れとして、二人は私のことをひどく馬鹿にする。
「そういう人に上に立たれているとさ、俺達としては気が気ではないよなぁ。ただ公爵家に生まれただけで偉くなるなんておかしな話だ」
「まあ、せめて能力くらいは上であって欲しいよなぁ。ほら、ラルリア嬢の妹、リルルナ嬢なんかはすごいんだろう?」
「よくわからないけど、そうみたいだな。でも、それも結局公爵家の権力によって誇張されているだけなんじゃないか?」
「ああ、そうか。そうだよなぁ。まったく、公爵家ってのはなんでも望み通りになる訳か」
二人は支離滅裂なことを言いながら、笑い合っていた。
公爵家の権力で望み通りになるのなら、私は落ちこぼれなんて言われていない。そんな簡単なことも、わからないということだろうか。
しかしながら、それも仕方のないことだといえる。二人が言っているのは、所詮やっかみだ。要するに私達公爵家のことを否定できるなら、何でも良いということなのだろう。
「……何やら楽しそうですね」
「うん?」
「誰だ? って、あ、あんたは……」
そんな風に呑気に話をしていた二人は、自分達の後ろから近づけて来ている人がいるとは気付かなかったようだ。
その人物の顔を見て、二人は驚いている。そこにいたのは、この国の王太子であり、私のいとこでもあるアドルヴ殿下だ。
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