使用人の私を虐めていた子爵家の人々は、私が公爵家の隠し子だと知って怖がっているようです。

木山楽斗

文字の大きさ
上 下
58 / 61

58(エルード視点)

しおりを挟む
 俺が見る夢は、いつも同じだった。
 父と母を失った悲しい夢。それを見て、俺はいつも改めて決意していた。必ず、父と母を見捨てた男達を見つけ出すと。
 幸運にも助かった俺は、それを成し遂げなければならないと思っていた。それを果たすために、妹であるシャルリナにラーファン家のことは任せようと思っていた。
 叔母であるアルシアが見つかっても、その決意は変わらない。そう思った俺だったが、ある日不思議なことが起こった。とある夢を見たのである。

「でも、外に出ないと健康に悪いよ? 日の光は浴びた方がいいらしいし、もっと外に出た方が……」
「でも、浴びすぎると体に悪いですよね? それって、意味わからなくないですか?」
「え?」
「浴びろという人もいれば、浴びるなという人もいる。そんなの訳がわからないじゃないですか。一日、どれくらい浴びれば健康になるんですか? 一日、どれくらい浴びちゃいけないんですか?」
「それは……私には、わからないけど……」
「じゃあ、浴びなくてもいいですよね?」
「あ、えっと……うーん」

 それは、いつかの日常の夢だった。
 アルシアとシャルリナが部屋で話していて、そこに俺が訪ねるというありふれた日常である。
 そんな夢を見るのは初めてだった。あの悪夢に比べて、その夢はとても穏やかだ。

「くだらない論で自分を正当化するんじゃない。お前の論は、滅茶苦茶だ」
「げ! お兄様!? また勝手に入って来て!」
「お前達が戸を叩く音も聞かないのが悪いのだ! いや、お前に関しては無視していたのか!?」
「お慈悲を!」

 俺はいつも通り、シャルリナに説教していた。
 こいつの認識には、いつも困らされている。当主になってもらいたいと思っているからもあるが、俺はいつもこの妹に厳しくしていた。

「叔母様、助けてください。お兄様が、怖いです」
「あ、えっと……エルード様、もう少し手加減を……」
「お前は甘すぎる。そんなことを言っていると、こいつはいつまで経っても成長しないのだ。それは、お前もわかっているだろう」
「まあ、エルード様の論はもっともだと思っています」
「叔母様? 裏切るつもりですか?」
「裏切るというか……元々、私はエルード様側の方だし……やっぱり、外には出た方がいいと思うよ」
「くぅ……」

 アルシアは、シャルリナに対して少し甘い。
 それは、この妹にとっていい方向に働いている。
 俺が鞭なら、アルシアは飴だ。二人でなれば、このシャルリナをまともな人間にできる気がする。

「仕方ありません……叔母様がそこまで言うなら、少しくらいは外に出てもいいですよ」
「ありがとう、シャルリナ」
「……お礼を言われると、複雑な気持ちになりますね」

 これは、幸福な夢だ。
 俺は、素直にそう思っていた。
 この日常を、俺は幸せに思っている。過去の辛い記憶を、忘れられる程に。
しおりを挟む
感想 68

あなたにおすすめの小説

選ばれるのは自分だと確信している妹。しかし第一王子様が選んだ相手は…

新野乃花(大舟)
恋愛
姉妹であるエミリアとリリナ、しかしその仲は決していいと言えるものではなかった。妹のリリナはずる賢く、姉のエミリアの事を悪者に仕立て上げて自分を可愛く見せる事に必死になっており、二人の両親もまたそんなリリナに味方をし、エミリアの事を冷遇していた。そんなある日の事、二人のもとにルノー第一王子からの招待状が届けられる。これは自分に対する好意に違いないと確信したリリナは有頂天になり、それまで以上にエミリアの事を攻撃し始める。…しかし、ルノー第一王子がその心に決めていたのはリリナではなく、エミリアなのだった…!

第一王子様は妹の事しか見えていないようなので、婚約破棄でも構いませんよ?

新野乃花(大舟)
恋愛
ルメル第一王子は貴族令嬢のサテラとの婚約を果たしていたが、彼は自身の妹であるシンシアの事を盲目的に溺愛していた。それゆえに、シンシアがサテラからいじめられたという話をでっちあげてはルメルに泣きつき、ルメルはサテラの事を叱責するという日々が続いていた。そんなある日、ついにルメルはサテラの事を婚約破棄の上で追放することを決意する。それが自分の王国を崩壊させる第一歩になるとも知らず…。

出来レースだった王太子妃選に落選した公爵令嬢 役立たずと言われ家を飛び出しました でもあれ? 意外に外の世界は快適です

流空サキ
恋愛
王太子妃に選ばれるのは公爵令嬢であるエステルのはずだった。結果のわかっている出来レースの王太子妃選。けれど結果はまさかの敗北。 父からは勘当され、エステルは家を飛び出した。頼ったのは屋敷を出入りする商人のクレト・ロエラだった。 無一文のエステルはクレトの勧めるままに彼の邸で暮らし始める。それまでほとんど外に出たことのなかったエステルが初めて目にする外の世界。クレトのもとで仕事をしながら過ごすうち、恩人だった彼のことが次第に気になりはじめて……。 純真な公爵令嬢と、ある秘密を持つ商人との恋愛譚。

逆行転生した侯爵令嬢は、自分を裏切る予定の弱々婚約者を思う存分イジメます

黄札
恋愛
侯爵令嬢のルーチャが目覚めると、死ぬひと月前に戻っていた。 ひと月前、婚約者に近づこうとするぶりっ子を撃退するも……中傷だ!と断罪され、婚約破棄されてしまう。婚約者の公爵令息をぶりっ子に奪われてしまうのだ。くわえて、不貞疑惑まででっち上げられ、暗殺される運命。 目覚めたルーチャは暗殺を回避しようと自分から婚約を解消しようとする。弱々婚約者に無理難題を押しつけるのだが…… つよつよ令嬢ルーチャが冷静沈着、鋼の精神を持つ侍女マルタと運命を変えるために頑張ります。よわよわ婚約者も成長するかも? 短いお話を三話に分割してお届けします。 この小説は「小説家になろう」でも掲載しています。

仕事ができないと王宮を追放されましたが、実は豊穣の加護で王国の財政を回していた私。王国の破滅が残念でなりません

新野乃花(大舟)
恋愛
ミリアは王国の財政を一任されていたものの、国王の無茶な要求を叶えられないことを理由に無能の烙印を押され、挙句王宮を追放されてしまう。…しかし、彼女は豊穣の加護を有しており、その力でかろうじて王国は財政的破綻を免れていた。…しかし彼女が王宮を去った今、ついに王国崩壊の時が着々と訪れつつあった…。 ※カクヨムにも投稿しています! ※アルファポリスには以前、短いSSとして投稿していたものです!

婚約破棄宣言は別の場所で改めてお願いします

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【どうやら私は婚約者に相当嫌われているらしい】 「おい!もうお前のような女はうんざりだ!今日こそ婚約破棄させて貰うぞ!」 私は今日も婚約者の王子様から婚約破棄宣言をされる。受け入れてもいいですが…どうせなら、然るべき場所で宣言して頂けますか? ※ 他サイトでも掲載しています

婚約者を義妹に奪われましたが貧しい方々への奉仕活動を怠らなかったおかげで、世界一大きな国の王子様と結婚できました

青空あかな
恋愛
アトリス王国の有名貴族ガーデニー家長女の私、ロミリアは亡きお母様の教えを守り、回復魔法で貧しい人を治療する日々を送っている。 しかしある日突然、この国の王子で婚約者のルドウェン様に婚約破棄された。 「ロミリア、君との婚約を破棄することにした。本当に申し訳ないと思っている」 そう言う(元)婚約者が新しく選んだ相手は、私の<義妹>ダーリー。さらには失意のどん底にいた私に、実家からの追放という仕打ちが襲い掛かる。 実家に別れを告げ、国境目指してトボトボ歩いていた私は、崖から足を踏み外してしまう。 落ちそうな私を助けてくれたのは、以前ケガを治した旅人で、彼はなんと世界一の超大国ハイデルベルク王国の王子だった。そのままの勢いで求婚され、私は彼と結婚することに。 一方、私がいなくなったガーデニー家やルドウェン様の評判はガタ落ちになる。そして、召使いがいなくなったガーデニー家に怪しい影が……。 ※『小説家になろう』様と『カクヨム』様でも掲載しております

【完結】溺愛される意味が分かりません!?

もわゆぬ
恋愛
正義感強め、口調も強め、見た目はクールな侯爵令嬢 ルルーシュア=メライーブス 王太子の婚約者でありながら、何故か何年も王太子には会えていない。 学園に通い、それが終われば王妃教育という淡々とした毎日。 趣味はといえば可愛らしい淑女を観察する事位だ。 有るきっかけと共に王太子が再び私の前に現れ、彼は私を「愛しいルルーシュア」と言う。 正直、意味が分からない。 さっぱり系令嬢と腹黒王太子は無事に結ばれる事が出来るのか? ☆カダール王国シリーズ 短編☆

処理中です...