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58(エルード視点)
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俺が見る夢は、いつも同じだった。
父と母を失った悲しい夢。それを見て、俺はいつも改めて決意していた。必ず、父と母を見捨てた男達を見つけ出すと。
幸運にも助かった俺は、それを成し遂げなければならないと思っていた。それを果たすために、妹であるシャルリナにラーファン家のことは任せようと思っていた。
叔母であるアルシアが見つかっても、その決意は変わらない。そう思った俺だったが、ある日不思議なことが起こった。とある夢を見たのである。
「でも、外に出ないと健康に悪いよ? 日の光は浴びた方がいいらしいし、もっと外に出た方が……」
「でも、浴びすぎると体に悪いですよね? それって、意味わからなくないですか?」
「え?」
「浴びろという人もいれば、浴びるなという人もいる。そんなの訳がわからないじゃないですか。一日、どれくらい浴びれば健康になるんですか? 一日、どれくらい浴びちゃいけないんですか?」
「それは……私には、わからないけど……」
「じゃあ、浴びなくてもいいですよね?」
「あ、えっと……うーん」
それは、いつかの日常の夢だった。
アルシアとシャルリナが部屋で話していて、そこに俺が訪ねるというありふれた日常である。
そんな夢を見るのは初めてだった。あの悪夢に比べて、その夢はとても穏やかだ。
「くだらない論で自分を正当化するんじゃない。お前の論は、滅茶苦茶だ」
「げ! お兄様!? また勝手に入って来て!」
「お前達が戸を叩く音も聞かないのが悪いのだ! いや、お前に関しては無視していたのか!?」
「お慈悲を!」
俺はいつも通り、シャルリナに説教していた。
こいつの認識には、いつも困らされている。当主になってもらいたいと思っているからもあるが、俺はいつもこの妹に厳しくしていた。
「叔母様、助けてください。お兄様が、怖いです」
「あ、えっと……エルード様、もう少し手加減を……」
「お前は甘すぎる。そんなことを言っていると、こいつはいつまで経っても成長しないのだ。それは、お前もわかっているだろう」
「まあ、エルード様の論はもっともだと思っています」
「叔母様? 裏切るつもりですか?」
「裏切るというか……元々、私はエルード様側の方だし……やっぱり、外には出た方がいいと思うよ」
「くぅ……」
アルシアは、シャルリナに対して少し甘い。
それは、この妹にとっていい方向に働いている。
俺が鞭なら、アルシアは飴だ。二人でなれば、このシャルリナをまともな人間にできる気がする。
「仕方ありません……叔母様がそこまで言うなら、少しくらいは外に出てもいいですよ」
「ありがとう、シャルリナ」
「……お礼を言われると、複雑な気持ちになりますね」
これは、幸福な夢だ。
俺は、素直にそう思っていた。
この日常を、俺は幸せに思っている。過去の辛い記憶を、忘れられる程に。
父と母を失った悲しい夢。それを見て、俺はいつも改めて決意していた。必ず、父と母を見捨てた男達を見つけ出すと。
幸運にも助かった俺は、それを成し遂げなければならないと思っていた。それを果たすために、妹であるシャルリナにラーファン家のことは任せようと思っていた。
叔母であるアルシアが見つかっても、その決意は変わらない。そう思った俺だったが、ある日不思議なことが起こった。とある夢を見たのである。
「でも、外に出ないと健康に悪いよ? 日の光は浴びた方がいいらしいし、もっと外に出た方が……」
「でも、浴びすぎると体に悪いですよね? それって、意味わからなくないですか?」
「え?」
「浴びろという人もいれば、浴びるなという人もいる。そんなの訳がわからないじゃないですか。一日、どれくらい浴びれば健康になるんですか? 一日、どれくらい浴びちゃいけないんですか?」
「それは……私には、わからないけど……」
「じゃあ、浴びなくてもいいですよね?」
「あ、えっと……うーん」
それは、いつかの日常の夢だった。
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そんな夢を見るのは初めてだった。あの悪夢に比べて、その夢はとても穏やかだ。
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「げ! お兄様!? また勝手に入って来て!」
「お前達が戸を叩く音も聞かないのが悪いのだ! いや、お前に関しては無視していたのか!?」
「お慈悲を!」
俺はいつも通り、シャルリナに説教していた。
こいつの認識には、いつも困らされている。当主になってもらいたいと思っているからもあるが、俺はいつもこの妹に厳しくしていた。
「叔母様、助けてください。お兄様が、怖いです」
「あ、えっと……エルード様、もう少し手加減を……」
「お前は甘すぎる。そんなことを言っていると、こいつはいつまで経っても成長しないのだ。それは、お前もわかっているだろう」
「まあ、エルード様の論はもっともだと思っています」
「叔母様? 裏切るつもりですか?」
「裏切るというか……元々、私はエルード様側の方だし……やっぱり、外には出た方がいいと思うよ」
「くぅ……」
アルシアは、シャルリナに対して少し甘い。
それは、この妹にとっていい方向に働いている。
俺が鞭なら、アルシアは飴だ。二人でなれば、このシャルリナをまともな人間にできる気がする。
「仕方ありません……叔母様がそこまで言うなら、少しくらいは外に出てもいいですよ」
「ありがとう、シャルリナ」
「……お礼を言われると、複雑な気持ちになりますね」
これは、幸福な夢だ。
俺は、素直にそう思っていた。
この日常を、俺は幸せに思っている。過去の辛い記憶を、忘れられる程に。
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