使用人の私を虐めていた子爵家の人々は、私が公爵家の隠し子だと知って怖がっているようです。

木山楽斗

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 私はエルード様とともに、ボドール様と対峙していた。
 破滅するとわかった彼は、私達に対して決して謝罪しないと言ってきた。彼の心の中に、罪悪感というものはひとかけらも残っていないようだ。

「お前達一族は、このゲルビド家の糧となる存在だったのだ! お前の祖父母も母も、かつてのお前も! 皆、私達の養分に過ぎなかった!」
「貴様……」
「公爵家の人間だか、なんだか知らないが、お前は屑だ! 愚かなる祖父母や母の血を継ぐ屑なんだよ!」

 ボドール様は、私に対して罵倒してきた。
 その罵倒に、私の心は揺さぶられる。私の祖父母が、母が、彼らの養分だったなどという言葉は、非常に許しがたい言葉だ。

「そうだ……お前の母親が、どういうことをしていたか知っているか? 貴族に体を売って、金を稼いでいたんだぞ? お前ができたのも、それによるものだ! あの女は、最低な女だったんだよ!」
「黙れ、それ以上喋ると……」
「売女の娘め! 忌まわしい屑が! お前など忌むべき存在でしかない! 生まれるべきではなかった存在なのだ!」

 ボドール様の叫びは、とても不快なものだった。
 しかし、同時に私はあることを感じていた。彼の目には、私が映っていないのだ。
 彼が見ているのは、私の母である。私を通して、ボドール様は母を見ているのだ。

「どうやら、その不快な口を閉じさせる必要があるようだな……」
「エルード様、待ってください」
「何?」

 ボドール様に掴みかかろうとしたエルード様を、私は止めた。
 彼の口を閉じされるのに、力に頼る必要はない。今までの言葉で、私はそれを理解していた。彼に一番効くのは、きっとあの人のことなのだ。

「可哀そうな人……」
「な、何……?」
「そんなに……母のことが恋しかったのですか?」
「なっ……!」

 私の言葉に、ボドール様は目を丸くしていた。
 先程まで散々動いていた口は、開いたまま動かなくなっている。私の言葉が、図星であるからだろう。
 彼は今まで、私や母や祖父母のことを馬鹿にしていた。その罵倒の裏にあったのは、そういう感情だったのだ。

「馬鹿な……どういうことだ?」
「ボドール様の目を見ていればわかります。彼は、母のことを愛していたのでしょう」
「なんだと?」

 私の言葉に、エルード様は驚いていた。
 それは当然のことである。今までのことを考えると、そんなことは、想像すらできないことだろう。
 だが、聡明なエルード様はわかっているはずだ。目の前の男の態度が、それが本当であると証明していることを。
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