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私とエルード様は、ゲルビド子爵家の当主であるボドール様と対峙していた。
彼は、私達の来訪に希望を見出していた。それをはっきりと叩き折ったため、彼は絶望しているようだ。
「な、ならば、どうしてわざわざここに? 何の意図があって、私の元に来たのですか?」
「一つは、事実を認識してもらうためだ。何も言わずに破滅させるというのは俺の流儀に反する。故に、お前達にはきちんと事実を突きつけておくことにした。これは、慈悲の一種といってもいいかもしれないな」
エルード様は、きちんと相手に事実を伝えてからことを実行するつもりだった。破滅するまでに、何か準備をしていいという猶予を与えているのだ。
それだけなら、慈悲といえるかもしれない。だが、それだけではないのだ。
「一つは、お前達がどういう顔をするか見ておきたかった。苦悶に歪むお前の顔は、中々に見物だったぞ?」
「な、なんと非道な……」
「非道? お前には言われたくはないが、まあ事実ではあるか」
エルード様は、笑みを浮かべていた。
その笑みは、邪悪な笑みだ。エルード様が本心でどう思っているかはわからないが、その笑みはボドール様にとって屈辱的なものだろう。
「さて、今までの理由もあったが、最も重要な理由は別にある。それは。お前に謝罪してもらうことだ」
「しゃ、謝罪……?」
「ここにいるアルシア、及びその母とその祖父母は、お前達ゲルビド子爵家に苦しめられてきた。その謝罪をしてもらわなければならない」
私達がここに来た一番の理由は、そのためだった。
ボドール様からの謝罪。それが、私達が求めているものである。
私個人に対して、謝罪をしてもらいたいとはそれ程思っていない。重要なのは、母や祖父母に対する謝罪だ。
その人生を狂わせた謝罪はしてもらう必要がある。それが私の一番の望みなのだ。
「ふ、ふざけるな……こんなことをされて、謝罪なんぞすると思っているのか?」
「ほう」
「私は破滅する。それが変わらないのなら、お前達が屈辱的な方を選ぶまで。決して謝るものか!」
そんな私達の思いを、ボドールは踏みにじろうとしてきた。
決して謝らない。それが、こちらの一番傷つく選択だとわかっているのだ。
彼の中には、人の心は残っていないようである。祖父母や母の人生を狂わせたゲルビド家は、決してその行いを悔い改めてくれないのだ。
「屑が……やはり、お前達は徹底的に追い詰めるしかないようだな」
「ははは! なんとでも言え! 私はどうせ破滅する。もうなんと言われても、構わんわ!」
ボドール様は、笑っていた。
その楽しそうな笑みは、彼の心の邪悪さを表している。
この男の心は、必ず折らなければならない。私は、改めてそれを認識するのだった。
彼は、私達の来訪に希望を見出していた。それをはっきりと叩き折ったため、彼は絶望しているようだ。
「な、ならば、どうしてわざわざここに? 何の意図があって、私の元に来たのですか?」
「一つは、事実を認識してもらうためだ。何も言わずに破滅させるというのは俺の流儀に反する。故に、お前達にはきちんと事実を突きつけておくことにした。これは、慈悲の一種といってもいいかもしれないな」
エルード様は、きちんと相手に事実を伝えてからことを実行するつもりだった。破滅するまでに、何か準備をしていいという猶予を与えているのだ。
それだけなら、慈悲といえるかもしれない。だが、それだけではないのだ。
「一つは、お前達がどういう顔をするか見ておきたかった。苦悶に歪むお前の顔は、中々に見物だったぞ?」
「な、なんと非道な……」
「非道? お前には言われたくはないが、まあ事実ではあるか」
エルード様は、笑みを浮かべていた。
その笑みは、邪悪な笑みだ。エルード様が本心でどう思っているかはわからないが、その笑みはボドール様にとって屈辱的なものだろう。
「さて、今までの理由もあったが、最も重要な理由は別にある。それは。お前に謝罪してもらうことだ」
「しゃ、謝罪……?」
「ここにいるアルシア、及びその母とその祖父母は、お前達ゲルビド子爵家に苦しめられてきた。その謝罪をしてもらわなければならない」
私達がここに来た一番の理由は、そのためだった。
ボドール様からの謝罪。それが、私達が求めているものである。
私個人に対して、謝罪をしてもらいたいとはそれ程思っていない。重要なのは、母や祖父母に対する謝罪だ。
その人生を狂わせた謝罪はしてもらう必要がある。それが私の一番の望みなのだ。
「ふ、ふざけるな……こんなことをされて、謝罪なんぞすると思っているのか?」
「ほう」
「私は破滅する。それが変わらないのなら、お前達が屈辱的な方を選ぶまで。決して謝るものか!」
そんな私達の思いを、ボドールは踏みにじろうとしてきた。
決して謝らない。それが、こちらの一番傷つく選択だとわかっているのだ。
彼の中には、人の心は残っていないようである。祖父母や母の人生を狂わせたゲルビド家は、決してその行いを悔い改めてくれないのだ。
「屑が……やはり、お前達は徹底的に追い詰めるしかないようだな」
「ははは! なんとでも言え! 私はどうせ破滅する。もうなんと言われても、構わんわ!」
ボドール様は、笑っていた。
その楽しそうな笑みは、彼の心の邪悪さを表している。
この男の心は、必ず折らなければならない。私は、改めてそれを認識するのだった。
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