使用人の私を虐めていた子爵家の人々は、私が公爵家の隠し子だと知って怖がっているようです。

木山楽斗

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 私は、エルード様とともにゲルビド子爵家の屋敷に辿り着いていた。
 現当主であるボドール様は、私達を客室に通してくれた。公爵家が訪ねて来て、無下にすることはできないと思ったのだろうか。それとも、既に覚悟を決めているのだろうか。

「……それで、私に何の用でしょうか?」
「ふん、わかっているだろう?」
「……ぐっ」

 エルード様の言葉に、ボドール様は顔を歪めた。
 当然のことではあるが、彼も既にわかっている。自分達が、追い詰められるということを。

「お前達の悪事は、色々と暴かせてもらった。どうやら、思っていたよりも色々とやっていたようだな?」
「それは……」
「その悪事を晒せば、お前達は破滅する。それを理解しているな?」
「うぐっ……」

 ゲルビド子爵家は、思っていたよりも悪事を働いていたようである。
 私の祖父母と同じように被害を受けた人は、多いらしい。
 その悪事が暴かれれば、ゲルビド子爵家は大きな打撃を受けるそうだ。恐らく、没落は避けられないだろう。

「……な、何か交渉しに来たということですか?」
「何?」
「ここに来る意味など、なかったはずでしょう。黙って破滅させればよかったはずだ。それなのにここに来た。つまり、私達に何かの代わりに黙っておいてやると言いに来たのでしょう?」

 ボドール様は、エルード様や私が来たことに対してそういう解釈をしたようだ。
 確かに、状況だけ考えるとそう思っても不思議ではない。だが、私達がここに来たのは、まったく違う理由なのである。

「勘違いをしているようだが、俺はお前と交渉しに来た訳ではない。お前達を破滅させることは確定している。今更、それを改めるつもりはない」
「なっ……」
「そもそも、どうして俺がお前達を破滅させることを躊躇うと思ったのだ。それ程の価値が自分達にあると思ったか? それとも、俺が慈悲深き人間だとでも思ったか?」
「ぬうっ……」

 エルード様は、口の端を歪めて宣言していた。
 それに対して、ボドール様は顔を歪めている。自分達が助かる道がないとわかったからだろうか。
 どうやら、ボドール様が私達を簡単に通したのは、これが理由だったようである。エルード様が交渉しに来た。まだ助かるかもしれない。そう思ったのだろう。

 そんな彼の心は、今折れたかもしれない。
 もう助からない。その絶望で顔が歪んでいく様は、私にとって少し愉快なものだった。
 この顔が見たかった。そのはずなのに、私の心は未だ晴れていない。いくら彼らを苦しめても、私の心にかかったこのもやは晴れないのだろうか。
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