使用人の私を虐めていた子爵家の人々は、私が公爵家の隠し子だと知って怖がっているようです。

木山楽斗

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 私は、エルード様とシャルリナとともに屋敷の庭を走っていた。
 それなりの距離があるため、一周だけでも結構な運動になるだろう。それを三周しようというのだから、エルード様はかなり体力があるようだ。

「はあ、はあ……」

 一方、シャルリナは一週目の半分もいかないくらいで息を切らしていた。
 ずっと引きこもっていた彼女には、既に辛いようである。

「つ、辛い……こんなの無理では……」
「シャルリナ、頑張って」
「いや、無理ですよ。大体、この庭は広すぎます……どうして、こんなに広いのでしょうか? 半分くらいでよくないですか?」
「え? まあ、庭の広さはよくわからないけど……」

 話してみてわかったが、シャルリナは思っていたよりも元気だった。
 これだけ愚痴が言える元気があるなら、まだ問題ないだろう。
 だが、疲れていない訳ではないようだ。汗はかいているし、息は切れているし、辛いのは本当なのだろう。

「少しペースを落としたら?」
「え?」
「私やエルード様に合わせていると、多分きついと思うよ。もっとゆっくりと走った方がいいと思う」
「そうですね……でも……」
「うん?」

 私の言葉に、シャルリナは微妙な反応をしてきた。
 よくわからないが、ペースを落とすのが嫌なようである。
 一応、頭では私達のペースに合わせるべきではないということはわかっているようだ。だから、何か嫌な理由があるのだろう。

「どうかしたの?」
「いえ、その……一人で走ると虚しいではありませんか」
「虚しい?」
「遥か前に二人がいる状態で、私が走っていると、とても惨めな気がします。だから、あまり離れたくありません」

 シャルリナは、一人で走りたくないようである。
 要するに、寂しいということなのだろうか。
 それなら、私が傍についていてあげよう。別に、エルード様のペースに合わせられるとも思っていなかったし、私はそれでも構わない。

「それじゃあ、私が傍についてあげるよ」
「え?」
「シャルリナのペースに合わせるから、少しペースを落とそう?」
「叔母様……」

 シャルリナは、私の言葉に少し嬉しそうな顔をした。
 やっぱり、寂しかったのだろう。私が一緒にいるとわかって、喜んでくれているようだ。

「ありがとうございます。それなら、叔母様は私についてもらっていいですか?」
「うん、大丈夫だよ」
「お兄様は、放っておきましょう。あの人は、孤独に走るのです」

 シャルリナは、少し笑っていた。
 その笑みは、エルード様を孤独にできるからこぼれたものなのだろうか。
 相変わらず、彼女は彼を煽るのが大好きなようである。
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