使用人の私を虐めていた子爵家の人々は、私が公爵家の隠し子だと知って怖がっているようです。

木山楽斗

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 私とシャルリナは、長い時間泣き続けた。
 やがて、落ち着いてきて、涙も止まっていった。
 悲しみはまだあるが、とりあえず私はシャルリナから体を離す。

「……泣きましたね」
「うん……泣いたね」
「こんなに泣いたのは、初めてかもしれません。身近な人の死は、今まで経験していませんでしたから……」
「そっか……」

 シャルリナは、こういうことを初めて体験したようである。
 私は、この感覚を知っていた。母が亡くなった時も、私は深い悲しみの中にいた。あの時は、とても辛かったことを今でも覚えている。
 シャルリナがいてくれてよかった。一人の時は、今よりもっと悲しくて心細かった。誰かがいてくれる温かさを、私は改めて実感したのである。
 同時に、シャルリナの傍にいれてよかったとも思う。私がいることで、どれだけ彼女に影響があったかはわからないが、一人よりは絶対によかったはずである。

「お祖父様は、とても私に甘い人でした」
「そうなの?」
「ええ、甘やかされた自覚はあります。私、甘やかされるのは好きなので、甘えていた自覚もあります」
「そうなんだ……やっぱり、孫には甘くなるものなのかな?」

 シャルリナは、ゴガンダ様の話を始めた。
 どうやら、彼は孫を甘やかしていたようである。
 祖父というのは、そういうものなのだろう。私は、祖父母を知らないのでよくわからないが、一般的にはそのはずである。

「あ、でも、お祖母様は、そこまで甘くありませんよ。私がぐうたらしていると怒りますし、それなりに厳しい人といえますね」
「あ、そうなんだ……」
「まあ、一番厳しいのは、お兄様ですけどね……この家の親族の中で、誰よりも厳しいのがあの人です」
「なるほど……」

 スレイナ様は、それ程甘い人ではないらしい。
 孫に甘いかどうかも、個人差があるようだ。

「……ゴガンダ様が孫に甘かったということは、エルード様も甘やかされていたのかな?」
「え?」
「あ、同性の孫には甘くなかったの?」
「あ、えっと……」

 私の質問に、シャルリナは何故かとても動揺していた。
 その動揺が、どういうものなのか私にはよくわからない。答えにくい質問なのだろうか。

「お兄様は……気難しい人でしたから、あまり甘えたりはしなかったと思います。お祖父様も、積極的に甘えてこないため、遠慮していたと思います」
「あ、そうなんだ。子供の頃から、エルード様はあんな感じだったの? あ、でも、シャルリナは知らないよね。まだ生まれていないんだし……」
「え、ええ、よく知りませんね」

 エルード様は、確かに気難しい人のような気がする。祖父に甘えている姿は、あまり想像できない。
 しかし、子供の頃からそうだったのだろうか。それは、少し気になる所である。
 だが、それはシャルリナにわかることではない。彼女が生まれるよりも、かなり前のことだからだ。

 ただ、少しだけ気になったことはある。シャルリナは、エルード様のことを煽れる時は煽るはずだ。それなのに、今回は気難しい人という言葉で抑えた。それが、少し気になったのだ。
 もっとも、ゴガンダ様を失った悲しみの中、そういうことを言うのを避けたのかもしれない。あまり、変なことは気にしない方がいいだろう。
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