使用人の私を虐めていた子爵家の人々は、私が公爵家の隠し子だと知って怖がっているようです。

２３

　私は、エルード様の妹であるシャルリナ様から逃げられてしまった。
　一瞬の出来事に、私は混乱している。どうして、あんなに一目散に逃げられたのだろうか。

「あの……」
「ああ、あいつのことか」
「はい……どうして、逃げられたのでしょうか？」

　私は、エルード様に聞いてみることにした。
　あのように逃げられるのには、何か理由があるはずだ。

「あいつは人見知りなのだ」
「人見知り……まあ、そうですよね」

　エルード様の言葉に、私はゆっくりと頷いた。
　人見知りだから逃げられる。それは、普通に考えられることだ。
　ただ、私はその前の態度が気になっていた。私と話すまで、彼女は結構楽しそうにしていたはずである。あれは、どういうことなのだろうか。

「私が話す前までは……」
「あれは、俺を煽りたかったから、話しかけてきたのだ。そういう隙だけは、見逃さない奴なのだ」
「……中々、いい性格をしていますね」

　煽っている時も思っていたが、シャルリナ様はかなりいい性格をしているようだ。
　エルード様を煽れる隙を絶対に見逃さないという精神は、執念ともいえる気がする。
　だが、別に二人の雰囲気は悪くなかったように思える。本当に喧嘩をしているという風ではなく、じゃれ合っているような雰囲気だったのだ。

「エルード様とシャルリナ様は、仲が良いみたいですね？」
「仲が良い？　別にそんなことはないと思うが……」
「そうですか？　私には、そう見えましたけど……」
「ふん……」

　私の言葉に、エルード様は視線を逸らしてきた。
　いつも堂々としている彼としては、珍しい態度である。
　恐らく、照れているのだろう。流石に、妹との仲は茶化されるのは恥ずかしいようだ。

「さて、予定が狂ったが、お前にはこれからシャルリナと会ってもらう」
「え？　もう会いましたよ？」
「これから、お前はこの家で暮らすことになる。あいつにも慣れてもらわなければならない。そのために、もう一度会ってしっかりと話してもらいたいのだ」
「私は、構いませんけど……」

　そこで、エルード様は話を変えてきた。
　どうやら、私はまたシャルリナ様と会うことになるようだ。
　もちろん、私は別に構わない。だが、シャルリナ様は大丈夫なのだろうか。

　人見知りの彼女にとって、私と会うことは苦しいことであるはずだ。それが、少し心配である。
　だが、一緒に暮らすようになる以上、いずれは慣れてもらわないと困るのは確かなことだ。だから、これは避けられないことなのかもしれない。

「問題はない。あいつも、避けられないことだということはわかっているはずだ」
「そうなのですね……」
「それでは、行くぞ」
「はい……」

　エルード様は、特に気にすることなく歩き始めた。
　心配はあったが、とりあえず私もそれに続くのだった。