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 私は、サリーハ様の元から去って、ある部屋の前まで来ていた。
 ここが、スレイナ様が待っている部屋であるらしい。

「さて、覚悟……いや、心の準備はできているか?」
「え? 覚悟……?」

 部屋の前で呟いたエルード様の言葉に、私は少し怖くなってきた。
 覚悟などというと、滅茶苦茶怖い。やはり、スレイナ様はそういう人物なのだろうか。

「言葉の綾だ。俺の見解では、彼女は怖い人ではない」
「それは、エルード様の見解ですよね?」
「父上の言葉で心配になっているのかもしれないが、本当に大丈夫だ。スレイナ様は、優しい人だ」
「え? あ、はい……」

 エルード様の言葉に、私は思わず頷いていた。
 それは、彼の言葉に違和感を覚えて動揺したからである。
 今、エルード様はスレイナ様のことをスレイナ様と言った。その呼び方が、なんだかおかしく思えるのだ。

 普通に考えて、親族に対してそのように呼んだりはしないだろう。
 祖母上、お婆ちゃん、そのような呼び方であるはずだ。
 何故、そんな距離がある呼び方をするのか。それが、よくわからない。

「それでは、行ってもいいか?」
「あ、はい……」

 私がそんなことを考えていると、エルード様が声をかけてきた。
 色々と考えていたため、私は自然と頷いてしまった。
 ということで、エルード様は戸を叩く。これで、いよいよ、スレイナ様と対面しなければならないのだ。

「あら?」
「エルードです。叔母上を連れてきました」
「入ってちょうだい」

 エルード様の言葉に、中から声が聞こえてきた。
 その声色は、二人に比べるととても平静だ。感情が、あまり読み取れない。
 彼女は、何を思っているのだろうか。やはり、とても怖いものである。

「さて……」

 エルード様は、ゆっくりとその戸を開いていく。
 それにより、中の様子が見えてくる。部屋の中にいる老齢の女性が、スレイナ様であるようだ。

「……あなたが、アルシアさんですか」
「はい……アルシアです」

 スレイナ様と対面して、私はとても緊張していた。
 彼女が、結局どういう人なのかわからないので、何を言われるのかとても怖いのだ。

「なるほど、確かにあの人の面影がありますね……」
「あっ……その、はい……」

 スレイナ様は、私の目をはっきりと見てきた。
 その鋭い視線に、私は思わず目を逸らしてしまう。
 視線だけで考えると、グルラド様から聞いた評価の方が正しい気がする。この人は、かなり怖い人なのではないだろうか。
 いや、私にだけこういう態度の可能性もある。どちらにしても、とても怖いことには違いないのだが。
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