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 私は、エルード様と一緒に馬車に乗っていた。
 ラーファン公爵家の屋敷に向かっているのだ。これから私は、そこで暮らしていくことになるらしい。
 公爵家というのは、貴族の中でも最も高い地位である。そんな人々が暮らしている屋敷で、私は上手くやっていけるのだろうか。

「……不安そうだな?」
「あ、はい……実は、とても不安です」
「別に、緊張する必要はない。公爵家は、お前のことを歓迎している。無下に扱うようなことはないことを約束しよう。お前は安心していればいいのだ」

 私の不安を察したのか、エルード様が優しい言葉をかけてくれた。
 一応、私は歓迎されているらしい。それは、嬉しい知らせである。
 だが、失礼なことをしてしまったら、それも覆ってしまうだろう。私は、貴族の礼儀作法などほとんど知らない。変なことをしないかという心配があるのだ。

「あの……エルード様、少し質問をしてもいいですか?」
「なんだ?」
「貴族の礼儀作法とは、どういうものなのでしょうか? 私、そういうことがよくわからなくて……」
「別にそんなことも俺達は気にしない。お前の境遇は理解しているからだ。そもそも、今教えた所で、すぐにそれを実行するのは難しいだろう。故に、お前は普通にしていればいい」

 不安だったので質問してみると、エルード様はまた優しい言葉をかけてくれた。
 どうやら、私は何も気にする必要がないようである。そこまで言われても、私の不安は拭えない。それで大丈夫なのかと、どうしても思ってしまうのだ。

「わかりました。いつも通りの私でいきたいと思います」
「ああ、それでいい」

 しかし、私はこれ以上気にしないことにする。エルード様がそう言っているのだ。これ以上色々と言うのは、彼を信用しないことになる。
 これまで接してきて、私はエルード様が信頼できると理解していた。だから、彼の言う通り、いつも通りの私でいることにしよう。

「……ただ、少し聞いてもいいですか?」
「む?」
「私は、公爵家にとって隠し子ということになるのですよね? それでも受け入れてもらえるのは嬉しいことだと思っています。でも、その……」
「なんだ?」
「奥様は、私に対してどういう感情を抱いているのでしょうか……?」

 ただ、私は一つだけ聞いておきたかった。
 それは、私の父親であるゴガンダ様の奥様が、私をどう思っているかということだ。
 奥様にとって、私は他の家族よりも複雑な思いを抱くべき存在である。浮気相手の子供なのだから、そのはずだろう。
 私は、それが気になっていた。私にとって、一番怖いのは奥様なのである。

「祖母のことが気になるのは、当然のことか……だが、それも安心していい。お前に対して怒る程、祖母は浅はかな人間ではない」
「そうなのですか?」
「お前の母親に対しては、流石に怒りをぶつけていたかもしれない。だが、祖母はお前に罪はないと考えられる人間だ。お前のことを無下に扱うことはないと、俺が断言しておいてやる」
「……わかりました」

 エルード様の言葉に、私はゆっくりと頷いた。
 私は複雑な存在である。そんな存在を受け入れようとしてくれる公爵家の人々に、私は感謝しなければならないだろう。
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