使用人の私を虐めていた子爵家の人々は、私が公爵家の隠し子だと知って怖がっているようです。

木山楽斗

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 荷物をまとめている私の元に、エルード様がやって来た。
 彼は、私が物置を部屋としていた事実に色々と思ってくれたようである。

「……ところで、荷物はまとめられたのか?」
「え?」
「俺との話し合いを終えたから、しばらく時間は経っているだろう。まだ時間はかかりそうか?」
「あっ……」

 エルード様の言葉に、私はあることを思い出した。
 そういえば、私はバリンジャ様やボドール様と会っていたため、私は少し時間を浪費していたのだ。すぐに部屋まで帰って来ていたら、そろそろ準備ができてもおかしくない時間である。
 だから、エルード様は来たのだ。片づけを始めてすぐ来たので、どうしたのかと思ったが、やっと納得できた。

「えっと……すみません。色々とあって、まだ時間がかかりそうです」
「そうか……何か、俺に手伝えることはあるか?」
「え? いえ、それは大丈夫です。人に見られたくない物もありますので……」
「ならば、俺は部屋の外で待っていよう」

 私の言葉に、エルード様はすぐに部屋から出て行った。
 なんというか、彼は優しい人であるらしい。雰囲気は少し怖いが、その根本は優しさに溢れている。今まで接してきて、私はそう理解していた。
 思えば、人に優しくされるのは随分と久し振りのことだ。この屋敷に来てから、そういうことはほとんどなかったため、とても新鮮な気持ちである。
 人に優しくしてもらえると、こんなに温かい気持ちになれるのだ。私も、この屋敷から出て行ったら、人に優しくするように心がけよう。

「よし……」

 そんなことを考えている内に、私は箱に荷物を詰め終えていた。
 予想していた通り、持ってきた時の箱に無事に収まっている。むしろ、余裕があるくらいだ。

「エルード様、終わりましたよ」
「……早かったな。入ってもいいか?」
「え? あ、はい。どうぞ」

 私が声をかけると、エルード様が部屋の中に入ってきた。
 彼は、私の荷物を見て、少しだけ神妙な顔をする。もしかしたら、たったこれだけと驚いているのかもしれない。

「さて、それではこれは馬車に運ばせてもらおう」
「あ、エルード様、荷物は私が……」
「ふん……」

 荷物を持ってくれたエルード様は、私の言葉に何も返してこなかった。
 それは恐らく、気にする必要はないということなのだろう。
 私は、彼の優しさに甘えてもいいのだ。こういう時に、何か言うのはむしろ野暮なのかもしれない。

「……ありがとうございます、エルード様」
「ふっ……行くぞ」
「はい」

 私は、エルード様に一言だけお礼を言っておいた。
 それだけのやり取りなのに、私の心はとても温かくなっている。こんなにもなんてことないやり取りに、私は感動しているのだ。
 こうして、私はエルード様と一緒に馬車に向かうのだった。
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