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 私の名前は、アルシア。ゲルビド子爵家に仕えている平民の使用人だ。
 平民というものは、貴族より低い地位にある。だからといって、貴族が平民を見下したりすることは少ない。多くの貴族は、身分が下だからといって、無闇に平民を貶めたりすることはないだろう。
 だが、私が仕えているゲルビド子爵家の人々は違った。彼らは、平民をひどく見下しているのだ。

「ふん……汚らわしい平民が、こんな所でつまらない面を見せるのではない」
「父上の言う通りだ。僕達子爵家の人間の前に、顔を見せないように気を遣うのも、お前の仕事であるはずだろう?」
「……申し訳ありません」

 特に、私はゲルビド子爵家の面々からとても嫌われていた。その理由は、もしかしたら私の立場にあるのかもしれない。
 私は、父親がいない。未婚の母から生まれた子供なのだ。そういう立場だからこそ、子爵家の人々は私をひどく見下しているのかもしれない。

「まったく、本当にお前の一族はどうしようもない人間が多い。お前の母親も、その両親もとても汚らわしい存在だ」
「……」

 もちろん、私もそんな環境で働きたいとは思っていない。罵倒されて苦しい仕事など、本当はしたくないと思っている。
 しかし、私はここで働かなければならない。なぜなら、私はゲルビド家に対して、借金を抱えているからだ。

「おい、父上がこう言っているのだ。早く、この場から去れ」
「はい……」
「ふん、平民は理解が遅い。やはり、馬鹿ばかりだ」

 私の母の両親は、色々と事情があって、ゲルビド家に対して借金をすることになった。
 その借金は、祖父母から母に引き継がれて、さらに私に引き継がれたのである。
 そんな私に対して、現当主ボドール様は、この屋敷で働くことを要求してきた。色々と罵倒していたが、私がここで働いているのは、彼が望んでいることなのである。

 要するに、彼は憂さ晴らしの相手が欲しいのだ。
 私という抵抗できない平民を虐める。そうやって、彼はストレスを解消しているのだろう。

 正直、それはひどい話だ。だが、借金をしている私は、彼に従うしかない。
 膨大な量の借金を返すまで、一体どれ程の年月がかかるのだろう。その途方もない時間、私は耐えるしかないのだ。

「一体、どうしてこんなことに……」

 ここで働くようになってから、私は色々と考えていた。
 どうして、祖父母はこんな家に借金をしてしまったのだろうか。
 そもそも、そんなことをしなければ、私はここにいなかった。もっと平和に暮らせていたはずである。

 それに、母もどうして借金を返してくれなかったのだろうか。
 もちろん、膨大な量であるため仕方ないのかもしれないが、彼女が返済してくれていれば、こんなことにはならなかったはずである。

 色々と事情があったのかもしれないが、それでも納得できない。
 この苦しい環境に、私は思わず母や祖父母を恨んでしまうのだった。
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