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42.月夜の乾杯

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「せっかくですから、私も一杯いただいてもよろしいでしょうか?」
「え? ええ、もちろん、構いませんよ」

 私のお願いを、リヴェルト様は快く了承してくれた。
 私は、厨房に足を運んで適当なグラスを見繕う。それからリヴェルト様の元に戻り、彼の隣に並んだ。

「どうぞ」
「ああ、ありがとうございます」
「一応、良いワインらしいです。といっても、私はあまり詳しくないのですが……」
「そうなんですか? まあ、私もわかりませんが……」

 リヴェルト様は、グラスにワインをそっと注いでくれた。
 私は、普段お酒の類は飲まない。別に飲めないという訳ではないのだが、そこまで好き好んでいる方ではないのだ。
 そのため、ワインの良し悪しなんてわからない。リヴェルト様もわからないとなると、このワインが本当に良いものかは謎である。

「リヴェルト様、乾杯」
「あ、ええ、乾杯」

 私はリヴェルト様とグラスを合わせてから、ワインを飲んだ。
 普通に美味しいと思う。ただ別に特別美味しいとは思わない。まあ、ワインを好んでいる訳ではない私が飲みにくいと思わない時点で、良いものではあるのだろう。
 何はともあれ、気分は悪くない。まだ一口飲んだだけではあるが、気分は高揚しているような気がする。

「なんだか、ご機嫌ですね? 何か良いことでもありましたか?」
「え? ああ、はい。そうですね。良いことはありました」

 リヴェルト様の指摘に、私は思い出す。そもそも自分の気分が高揚していたということを。
 私の気分が良いのは、アドールのことがあったからだ。お酒を飲んだことは、多分まだ関係がないだろう。

「アドール侯爵令息のことですか?」
「……わかりますか?」
「ええ、お二人は最近一緒に眠っているようですからね。そこで何かあったのではないかと思いました。昼間も色々とありましたからね」
「まあ、わかりますか……」

 リヴェルト様は、私の喜びの要因を見抜いていた。
 ただ、それは今の私達の状況を知っている彼なら、普通に思いつきそうなことだ。

「……実はお義母様と呼んでくれたんです。義母上とも言われました」
「なるほど、そうでしたか。それはきっと、嬉しいことでしょうね」
「ええ、とても嬉しいことです。でも、本当に重要なのはアドールが私のことを家族だと思っていると、改めてわかったことです」

 私は自然と、笑みを零していた。
 やはり、アドールと家族でいられるということが嬉しくて仕方ない。
 ただ、段々と酔いが回ってきているような気もする。だからだろうか、私の気分はさらに高揚していた。
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